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投稿論文
原産国イメージと便益ベースイメージ研究の関係性
古川 裕康寺﨑 新一郎
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2018 年 2 巻 1 号 p. 23-28

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Abstract

本研究の目的は,原産国イメージ研究を認知的要因の観点からサーベイし,認知的要因の研究が黎明期にある背景と,それを発展させる鍵概念に着目し,論じることである。

サーベイの結果,認知的要因は消費者の購買意思決定に関する成果指標と直接的に結びつきづらいことや,認知的要因と成果指標との間を,ブランド・イメージが媒介することが明らかになった。さらに,サーベイにおいて検討したブランド・イメージの定義を,便益ベースのイメージという概念に紐づけることで,本研究領域に新しい理論的貢献が期待できることが示唆された。

1  はじめに

原産国イメージ研究は,Dicher(1962)そしてSchooler(1965)を嚆矢としてはじまった1)。その背景には,多国籍企業が勃興する中で製品の海外生産が活発になったことや,生産拠点の選択に際して費用面だけでなくそのイメージにも配慮が求められるようになったことが挙げられる。以後,原産国イメージ研究は国際マーケティング領域の主要な一分野として多くの研究が蓄積されている。

先行研究で一貫して示されてきたのは,原産国イメージの中でも“Made in国名”といったような「手掛かり情報としての原産国」とされる認知的要因が,購買意図に与える直接的な影響は必ずしも大きくないということである(Johansson, Douglas & Nonaka, 1985; Ettenson, Gaeth & Wagner, 1988; Insch & Jackson, 2014; Zolfagharian, Saldivar & Sun 2014)。しかしながら,それは認知的要因の重要性が低いことを意味するものではない。近年,概念モデルを改良することで,認知的要因が消費者行動に与える影響について検討し,研究の蓄積に乏しい領域を補完しようと試みる研究に,改めて光が当てられているのである(Fetscherin & Toncar, 2010; Woo, 2016)。

本稿では,既存の原産国イメージ研究について概観した後,認知的要因に関する研究を発展させる可能性を持つ間接モデルという視点に着目する。間接モデルでは,原産国イメージとその他のブランド・イメージについての関係性が示されているが,本稿では後者として便益に関するイメージに焦点を当て認知的要因の理論的なメカニズムについて検討する。最後に,既存研究を考察したうえで,当該研究領域における今後の研究機会を示す。

2  原産国イメージの認知的要因研究

原産国イメージ研究が企業の国際的な生産拠点の拡大に端を発していることから,当初の研究は生産拠点に関する認知的要因の研究がほとんどであった。生産コストの安価な国とは概して人件費を抑えやすい開発途上国のことであるが,先進国の消費者にとって開発途上国での生産はネガティブなイメージを想起させやすいことが,初期の研究にて明らかにされている(Gaedeke, 1973; Lillis & Narayana, 1974; Dunn, 1976; Bannister & Saunders, 1978; Khanna, 1986; Nebenzahl & Jaffe, 1996)。しかしながら,生産国という概念は一義的ではなく,「生産」という言葉が“Made in”を表わすのか,“Assembled in”なのか,さらには“Parts supplied by”なのかを明確にすることが必要であろう(Chao, 1993)。これらは製造国(COM),組立国(COA),部品国(COP)と概念化され研究されている。さらに生産という概念に“Designed in”という要素も含めた設計国(COD)や,ブランドの発祥国を考慮したブランド国(COB),そして企業本社の所在地を考慮した本社所在国(COC)といった要素も原産国イメージの認知的要因研究として検討されてきた(Ettenson & Gaeth, 1991; Van Pham, 2006; Woo, 20162)

その後の研究では,例えばChao(2001)において認知的要因以外の要素も検討されている。Chao(2001)はテレビとステレオシステムを対象に,COA,COP,CODを国籍(米国/メキシコ)で操作し,消費者の態度や購買意図との関係性を検証した結果,COA,COP,CODが米国のとき,いずれの要素も態度や購買意図を高めていた。ただし被験者が米国人であったこともあり,COA,COP,CODそれぞれの効果(認知的要因)というよりも,単に自国製品を高く評価した可能性(規範的要因)や,両国間の歴史的な対立(感情的要因)が結果に及ぼす影響を否定できないという課題も提示されている‍3)

3  Orthogonality PerspectiveとIrradiation Perspective

原産国イメージの認知的要因は,製品判断や購買意図に大きな影響を与えるものされてきたが,次第に同様の結果が再現されるとは限らないことが明らかになってきた。したがって近年は,認知的要因に関する概念モデルを修正することで,消費者行動における認知的要因の役割の解明に関心が遷移してきている。

Magnusson, Westjohn, and Zdravkovic(2011)は,消費者の認知的要因の想起率や正確さの低さ,また多くの既存研究においてそれが消費者の購買プロセスで重要視されているとはいい難い点を指摘したうえで,原産国イメージに関する既存研究が主に製品評価と購買意図への直接的な影響を検証してきたことを課題として挙げている。Magnussonらは認知的要因が直接的に製品評価や購買意図へ影響を与えるのではなく,その前段階ともいえるブランド態度に影響を与えることを検証した。同研究グループは米国の消費者544名を被験者として,テレビ,自動車,アパレルを評価の対象とした調査を実施した。分析結果から,認知的要因は消費者が認識している生産国等が正しいか否かに関わらず,ブランド態度に影響していた。また,消費者が自らの認識している手掛かり情報が誤りであることに気付いた場合,ブランド態度に変化が起こることが確認された。

Diamantopoulos, Schlegelmilch, and Palihawadana(2011)も同様に,認知的要因に関する既存研究の多くが消費者の購買意図への直接的な影響を測定するモデルを検討していることを問題の所在として,認知的要因は直接的ではなく間接的に購買意図へ影響があること,その影響は,製品に関するブランド・イメージによって媒介されることを検証している。Diamantopoulosらは,特定の国家に関する原産国イメージとブランドの属性に関するイメージとを概念的に分けて捉えたうえで,「原産国イメージとブランド・イメージは,それぞれ直接的に購買意図へ影響を与える」とするOrthogonality Perspective(以下,直交モデルと表記)と,「原産国イメージはブランド・イメージを媒介として購買意図へ影響を与える」とするIrradiation Perspective(以下,間接モデルと表記)のいずれが消費者行動をより説明できるのかを検証した。それぞれの概念図は図1の通りである。直交モデルは,認知的要因が直接的に購買意図へ影響を与えることを想定している点で,既存の原産国イメージ研究の主流となる考え方とされている。対照的に間接モデルに関しては,これまで研究がドイツ語圏で発表されてきたこともあり,世界的にはあまり知られていないという。同研究グループは英国の6都市に在住する339名を被験者に,米国および中国製の冷蔵庫を実験刺激とする認知的要因の効果を分析した結果,間接モデルの方が直交モデルよりも説明力の高いことが示された。つまり認知的要因はブランドの属性に関係するブランド・イメージに影響を与え,その後ブランド・イメージが購買意図へ影響をもたらすという構図が確認されたのである。また,媒介分析の結果から,ブランド・イメージとは異なり,認知的要因は直接的に購買意図へ影響をもたらさないという。

         図1 

直交モデルと間接モデル

出所:Diamantopoulos et al.(2011),p. 511より抜粋。

前述の通り,認知的要因は直接的に購買意図等の成果指標に関係すると捉えられることが多かったが,それらの直接的な結びつきは強くないことが報告されている。したがって,認知的要因と成果指標との直接的な関係を考慮する直交モデルの採用が認知的要因に関する研究展開の制約になっていたと考えられる。一方で間接モデルでは,認知的要因が直接的に成果指標へ繋がるのではなく,ブランド・イメージを媒介して,成果指標に影響を及ぼすとされている。ブランド・イメージは,消費者がブランドに対して抱く様々な連想の集合体であり,かつ原産国情報の影響を少なからず受けることで変化する(Keller, 1993)。認知的要因とブランド・イメージとの関係を考慮し,その結果として成果指標が如何に変化するかを検討する間接モデルは,認知的要因に関する研究を進展させるものと考えられる。

4  便益ベースのイメージ研究

間接モデルでは原産国イメージにおける認知的要因の影響先として,ブランド・イメージが仮定されている。Diamantopoulos et al.(2011)はブランド・イメージを,「ブランドの属性からもたらされる消費者の知覚」(Diamantopoulos et al., 2011, p. 509)と定義しており,価格や品質,サービスの内容,デザイン,バラエティの豊富さ,革新性等に関するイメージに細分化している。

古川(2016)はブランド・イメージに関する研究潮流を次のように分類している。まず「原産国ベース」のブランド・イメージである。本稿で論じてきた認知的要因や,消費者エスノセントリズム,消費者アニモシティなどの規範的要因ないし感情的要因が該当する。次に「パーソナリティベース」のブランド・イメージである。これはブランドをヒトと例えた場合に,どのようなヒトであるのかといった点からまとめられるものである。具体的には,誠実,刺激,能力,洗練,耐久といった5つの要素でブランド・イメージが捉えられる(Aaker, 1997)。最後に「便益ベース」のブランド・イメージである。これは消費者が享受する便益に関連づけられたブランド・イメージであり,価格や品質,流行等が該当する。

間接モデルにおいてブランド・イメージは,ブランドの属性からもたらされた消費者の知覚と定義されていた。ブランドの具体的な属性からもたらされたイメージは,価格や品質,デザインなど,ブランドの属性から想起される便益に関連したイメージと重複している。実際にDiamantopoulos et al.(2011)が示したブランド・イメージの各要素は,価格や品質といった便益に関するものであり,属性に関するブランド・イメージは便益ベースのイメージとして研究が進められている。ゆえに,間接モデルで想定されるブランド・イメージとは便益ベースのイメージに近いと考えられる4)

Thakor and Lavack(2003)は認知的要因が消費者の製品属性に関する知覚に影響をもたらすことを示唆している。消費者にとって原産国表記は,当該国が適切な品質の製品を作っているかについての目安となり,ステータスの象徴ともなりうる。つまり認知的要因は,製品の属性に関する保証機能を消費者にもたらすのである。そのため認知的要因は消費者の製品属性知覚に影響を及ぼしていることが想定される。そして製品の属性に起因するブランド・イメージ研究は便益ベースのイメージとして研究が進められている。

便益ベースのイメージ研究を提起したPark, Jaworski, and Maclnnis(1986)は,既存研究を整理した上で,消費者の基本的なニーズを①自らの不安を解消するためのもの,②快楽的なもの,③他者との関係性の中で生じるものという3つに分けている。そしてこれらの基本的なニーズを用いて,消費者の享受する便益に関するイメージとして機能的要素,経験的要素,象徴的要素という3つの側面を挙げている5)。Parkらの便益ベースのイメージ研究は,Keller(1993)による顧客ベース・ブランド・エクイティ概念に組み込まれ,その後も要素の細分化という形で概念が発展している。ただし細分化された便益ベースのイメージ研究も,Parkらの提示した3要素を理論的基盤としている(e.g. Hsieh, 2002; Aaker, 2014)。

機能的要素とは,価格や品質等といった文字通り製品の機能性に関するイメージであり,製品の機能や性能といった実利的側面に関するものである。たとえばコストパフォーマンスや耐久性に関するイメージなどが挙げられる。経験的要素とは,喜びや,楽しみ,興奮,美しさといった感覚的,感情的なイメージである。具体的には審美的なデザインやスタイリッシュさ,製品やサービスを体験することで得られた心躍る感情に由来するイメージが該当する。そして象徴的要素とは,コミュニティ内の立場や周りの人々との関係性に関わる製品のイメージを指す。具体的には贅沢感や希少性に由来するステータス性や,多くの消費者に支持されていることを示すファッション性などが該当する。

便益ベースのイメージ内容を整理すると,大きく機能的要素,経験的要素,象徴的要素の3つに分けることができる6)。間接モデルの中で提示されたブランド・イメージについては具体的な分類はなされていなかったが,原産国イメージの認知的要因と便益ベースのイメージの関係性を検討することで,認知的要因の消費者行動に与えるメカニズムをより詳細に検討できるものと思われる。

5  原産国イメージの認知的要因と便益ベースのイメージ

本稿でここまで扱ってきた内容を図2に整理した。ここでは間接モデルを用いながら,認知的要因としてCOM,COA,COP,COD,COB,COCを挙げ,便益ベースのイメージとして機能的要素,経験的要素,象徴的要素を記した。

図2 

原産国イメージの認知的要因と便益ベースのイメージ

出所:筆者作成。

原産国イメージ研究の端緒が,品質を確認するための手掛かりとしてのCOM,COA,COPであったことを考慮すると,これらの要素は主として機能的要素と関係していると想定される。Nagashima(1970)Han(1989)といった初期の研究では,“Made in”をはじめとした生産に関する情報は,消費者の知覚品質に影響をもたらすことが明らかにされている。組み立てや部品の製造は最終製品の品質を大きく左右する要素である。ゆえに,組み立てや部品の製造がどこで実施されたかという情報が,機能的要素に関わるブランド・イメージの構築に関係するものと思われる。

また,CODが消費者に知覚された価格に影響をもたらすというChao(1993)の研究を踏まえると,CODも同様に機能的要素と関係づけられそうである。機能的要素には品質や文字通り機能性以外に,価格の要素も含まれる(Park et al., 1986)。たとえ品質や機能性に劣る製品であったとしても,CODを慎重に管理することができれば消費者の価格に対するイメージを変化させることができるという(Chao, 1993)。

最後にCOBとCOCは,象徴的要素との関連性が指摘されている。Woo(2016)はCOBとCOCが知覚された製品のステータス性にどのように影響するかについて,ファッションブランドを対象に検証した結果,双方とも知覚されたステータス性に影響を及ぼしていた。ステータス性に関するイメージが象徴的要素の全てではないが,COBやCOCが象徴的要素と関連していることを示唆する結果である。

既存研究では,認知的要因としての原産国情報が,消費者反応にもたらす影響を中心に議論されているものの,それらがどのような便益ベースのイメージと結びつくのかについては,今後の課題となりそうである。

6  結びにかえて

本稿では,原産国イメージ研究の中でも認知的要因に焦点を当て,その背景ならびに課題についてサーベイを試みた。その結果,既存の原産国イメージ研究においては主として直交モデルが採用されてきたことに問題があり,間接モデルを採用した研究が限られていること等が明らかになった。間接モデルを採用することで,原産国イメージとブランド・イメージについての理論的な関係性がより精緻に議論できるものと思われる。例えば,認知的要因のいずれが,機能的要素,経験的要素,象徴的要素に関係しているのかを探ることで,認知的要因の位置づけと役割がより明確になるであろう。

原産国イメージ研究は国際マーケティング領域で多くの実証研究がなされており,主要なテーマの一つとなっているが,その内容を整理してみると未だに研究の余地が大きい部分が残されている。その部分である原産国イメージの認知的要因は,我が国でも東日本大震災と,その後の原発事故以降では特に,日本の製品を海外へ展開する際に改めて脚光を浴びるようになった。また日本企業が蓄積してきた「日本発ブランド」という神話も,多くの優れた海外発ブランドが登場してきたことで,崩れつつある。原産国イメージの認知的要因が消費者行動の中でどのように位置づけられるのかという点は,今後の日本企業が世界で展開する際においても重要な論点となるものであり,さらなる研究が求められる。

1)  Country of origin image researchの訳語である。以降,原産国イメージ研究とする。

2)  COM,COA,COP,COD,COB,COCは,それぞれCountry of Manufacture,Country of Assembly,Country of Parts,Country of Design,Country of Brand,Country of Companyの略語である。

3)  朴(2012)は原産国イメージ研究の内容について,COX等といった手掛かり情報である認知的要因以外にも,規範的要因,感情的要因の存在を明らかにしている。規範的要因には,消費者の社会的・個人的な規範が該当し,消費者エスノセントリズムのような国産品志向と関連している。感情的要因には,特定国に対する敵対心が該当し,消費者アニモシティのような対立国家からもたらされた製品に対する感情的な忌避志向と関連している。消費者エスノセントリズムや消費者アニモシティに関しては,Shimp and Sharma(1987),ならびにKlein, Ettenson, and Morris(1998)を参照されたい。またそれらを原産国イメージと関連させた研究についてはSharma(2011)李(2011, 2012)が詳しい。また規範的要因,感情的要因に認知的要因も含め包括的に原産国イメージを検証した研究についてはFunk, Arthurs, Treviño, and Joireman(2010)Cheah, Phau, and Huang(2016)を参照されたい。

4)  原産国イメージの認知的要因とBrand Personalityの関係を明らかにした研究に関してはFetscherin and Toncar(2010)を参照されたい。

5)  それぞれはFunctional,Experiential,Symbolicの訳語である。

6)  Aaker(1996, 2014)においても,同様の概念が提示されている。各名称は多少異なっているものの,概念的にはほぼ同義である。本国においても和田(2002)が機能的要素に該当する便益として基本価値・便宜価値を,経験的要素に該当する便益として感覚価値を,そして象徴的要素に該当するものとして観念価値を挙げている。より細分化された便益ベースのイメージ分類も存在する。詳細は古川(2011)を参照されたい。またブランド便益の測定尺度についてはSweeney and Soutar(2001)によるPERVAL(Perceived Value Scale)が参考になる。

参考文献
 
© 2018 日本商業学会
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