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査読論文
ユーザー生成コンテンツの収益化モデル―動画コンテンツ投稿ユーザーの経験の比較―
片野 浩一
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2025 年 9 巻 1 号 p. 1-7

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Abstract

本研究では,YouTubeを初めとする動画共有プラットフォームに投稿される映像・動画コンテンツに関するUGCを対象に,制作する個人ユーザーが収益を獲得する行動について動機づけ要因と能力から投稿公開成果を経て収益化に至るプロセスをモデル化し,ユーザー質問紙調査とそのデータの統計分析から検証する。先行研究ではUGCの制作投稿を動機づけて投稿量を増やす要因についての報告が多く,投稿されたコンテンツが市場と顧客からどのように評価され,収益にどのように結びつくかに関する体系的な研究がデータ収集上の困難から少ない。そこでUGCの収益化モデルを提案して経験的に検証することでUGCのユーザー行動研究を補完して体系化する狙いがある。動画コンテンツの投稿行動がファンコミュニティの形成を経て2つの収益に至るルートを実証し,ユーザー経験の違いを見出した。

1  はじめに(問題意識)

消費者にとって今や生活と趣味に欠かせないコミュニケーション手段となったX(旧Twitter)やFacebook,Instagram等のSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)を初めとするプラットフォームのサービスが拡大し,同時に消費者ユーザーが自らコンテンツを制作して投稿するユーザー生成コンテンツ(user-generated content:以下UGC)が増加している。Kaplan and Haenlein(2010)によれば,「UGCとは日常的なソーシャルメディアの中で,専門的な企業ではなく,個人または少数のユーザーによって創作,調整,共有,消費されるものである」と定義している。このUGCの拡大は次第に投稿プラットフォーム上のビジネスの仕組みにつながり,たとえばYouTubeを始め動画投稿プラットフォームでは投稿者が収益を得るプログラムが整備されている。経済産業省他「コンテンツ産業新展開強化事業報告書」(2018年)ではUGCの流通プラットフォームのなかで視聴者がコンテンツの作り手に対して金銭的対価を支払う仕組みがアフィリエイト(成果報酬型)を含む広告収入以外には普及していない現状を指摘し,UGCの収益化(マネタイズ)の方策について検討されている。

早期の先行研究にはUGCの制作投稿を動機づけて投稿量を増やす要因についての報告が目立ち,近年ではYouTubeのような実際の投稿プラットフォームで投稿データやユーザー反応,収益などの関係を分析する研究例が見られる。両者,つまりユーザーの動機づけから投稿されたコンテンツが市場と顧客からどのように評価され,それが収益化にどのように結びつくかに関する体系的な収益化モデルの研究例は少ない。①動機づけ要因と能力が投稿量に与える影響はサンプリングユーザーへの質問紙調査や実験計画とその統計モデル分析が主流である一方,②投稿成果がプラットフォーム経由で収益につながる影響は実際の数値データ(報酬額や視聴回数,フォロワー数など)を時系列に収集・分析する特徴があるため,両者を1つのモデルに統合して設計するのはデータ収集上で困難が伴うからである。また前者の研究には時間的推移を考慮できない問題もある。このような事情からUGCの体系的な収益化モデル研究がこれまで見られなかったと考えられる。しかしながら,上述のようにSNSでのUGC投稿は社会的にも拡大しており,そこから収益を得るユーザーも増えている。UGCの収益化モデルを構築して検証することは既存研究の対象範囲を拡張し,①と②の学術研究を結びつける意義があり,実務的にも投稿ユーザーの全体行動の観察から得られる社会的な含意も大きい。本研究ではUGCの収益化モデルの実証にユーザー質問紙調査を採用し,回答者の想起バイアスを調整しつつ,時系列な推移観察を今後の継続課題として,限定的ながら因果関係を説明することを目的とす‍る。

そこで,YouTubeを初めとする動画共有プラットフォームに近年投稿が急増する映像・動画コンテンツに関するUGCを対象に,制作する個人ユーザーが収益を獲得する行動について動機づけ要因と能力から投稿公開成果を経て収益化に至るプロセスをモデル化し,質問紙調査とそのデータの統計分析から検証する。

2  先行研究

2.1  UGCの動機づけ要因・能力の研究

ユーザーのUGC制作を動機づける研究は,伝統的な社会心理学や組織心理学の概念と尺度を援用する実証に始まる。まずKatz(1960)が提唱した動機づけ4機能を基に,Daugherty, Eastin, and Bright(2008)の研究ではブログの記事や写真投稿,コミュニティフォーラムに投稿するユーザーに対して,①功利主義機能,②自己の価値表出機能(内発的動機づけ),③自己防衛機能,④社会的機能(社会的承認)に加えて知識や情報に関する能力の5つをサンプリングによる質問紙調査と重回帰分析から検証した。ユーザーの制作行動に社会的機能と自己防衛がプラス,内発的動機づけに当たる価値表出はマイナスに影響した。Wang and Li(2014)の研究はFacebookに投稿するユーザーへの質問紙調査から,知覚された能力指向と自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)に基づく内発的動機づけ(自律性指向,関係性指向,有能感欲求)が投稿動機にプラスに働くことを示した。続くPoch and Martin(2015)の研究は動画コンテンツを制作する動機づけ要因を実験計画と分散分析から調べ,他人の役に立ちたいとする利他的主義と経済的インセンティブがプラスに働くことを示した。またBründl and Hess(2016)の研究ではUGCの投稿動機がコンテンツの投稿量に影響し,所属するコミュニティのサイズが投稿する頻度や継続性に影響することを質問紙調査から明らかにしている。近年のRach(2021)の研究はショート動画の投稿プラットフォームであるTikTokに投稿するクリエイターに対するインタビュー調査から,経済的インセンティブと内発的動機づけが投稿行動の態度を促進する結果を導いている。Liu and Feng(2021)のユニークな研究はユーザーへの経済的インセンティブが直線的にUGCの投稿動機とコンテンツ投稿量を増やすのではなく,マクロ経済現象を説明するクラウディングアウト効果の概念を援用し,投稿者の参加とコンテンツの投稿量に対して経済的インセンティブの影響は単調ではなく,インセンティブの増加で投稿量が均衡する複雑な現象を報告した。さらにBurtch, He, Hong, and Lee(2022)は,コンテンツ投稿サイト「Reddit」の投稿ユーザーに表彰を割り当て,2カ月間の追跡調査から受賞者は頻繁により長く投稿する傾向が見られ,社会的承認の動機づけが投稿行動を持続させる結果を報告している。

2.2  投稿成果と収益化に関する研究

UGCの投稿プラットフォームの収益化に関する既存研究は,主に投稿ユーザーが報酬を得る仕組みや課題についてユーザーとプラットフォームを対象に実データを基に報告されており,プラットフォームの内外で収益を得る仕組みについての代表的な調査研究がある。まずLi, Goh, and Heng(2016)は中国のソーシャル投資サイトにブログやコメントを投稿するユーザーの社会的な努力がマネタイズ(収益化)を促進する仕組みを大規模データセットで示した。金融情報投稿サイト(iMaib)の投稿ユーザーが,フォロワーの獲得度合いに応じてプラットフォームから報酬を受け取るほか,VIP向けコンテンツの販売で収益を得たりするなど,今日普及する動画投稿プラットフォームから得られる間接的,直接的収益について時系列データを用いた統計モデルで説明した。Elango(2019)は動画の制作投稿を行うクリエイターがYouTubeからどのように収益を分配され,広告の種類と視聴回数から収益にコンバージョンするレートについて二次データを使って分析し,広告主が出稿する動画を選ぶ方法について考察している。クリエイターが動画投稿から収益を得るための様々な広告種類を整理するとともに,視聴回数から収益への転換率について調査分析し,クリエイターが収益を最適化する際の重要性を指摘している。Kopf(2020)はYouTubeの収益化スキーム(YouTube Partner Program[YPP])からクリエイターとプラットフォーム企業の関係を調査した1)。YouTubeのパートナープログラムはクリエイターが収益を得る大きな機会を提供する一方で,プラットフォーム企業に有利な取り決めがクリエイターにとってはコンテンツをプラットフォーム外に向けて発信する可能性を示唆している。Hua, Horta, Ristenpart, West, and Naaman(2022)ではYouTubeの幅広い収益化システムについて大規模データセットを用いて調査している。プラットフォームから間接的な広告収入を得る仕組みに加えて,プラットフォーム外の外部収益化(直接的収益)が増えていることを指摘し,調査したクリエイターの61%が直接的収益を得ていることも明らかにした。

以上からユーザーがUGCの投稿からプラットフォームの内外で得られる収益は,大きくプラットフォーム内から視聴実績で得られる広告収入(これを間接的収益と称する)と,コンテンツの販売から得られる直接的な収益の2つに区分され,その収益の大きさがプラットフォーム内のフォロー(顧客の支持)に依存することが確認されている。ここから,UGCの投稿成果がプラットフォームからの顧客支持を経て,これが2つの収益にどのように影響するのか,という過程を明らかにできれば,先行研究の知見を一歩進めた体系的な実証研究になるものと期待できる。

3  仮説モデルと測定方法

3.1  収益化モデルと仮説パス

以上の先行研究を基に,個人ユーザーがUGCを制作して収益化を得るプロセスについて,動機づけ要因・能力から投稿公開成果,そして市場反応,間接的・直接的収益に影響する収益化モデルと変数群を設計した(図1)。

図1. モデルと仮説パス:全体モデル⇒ユーザー経験別グループ

まず先行研究から動機づけ要因は「内発的動機づけ」「社会的承認」「利他的主義」「経済的インセンティブ」の4つに絞り,知覚する「知識・経験的能力」を含む5つを外生変数として構成概念(潜在変数)に設定し,これらがコンテンツの投稿公開成果(投稿公開本数,投稿公開頻度)に影響することを仮定する。投稿公開本数は長期的な経験量,投稿公開頻度(月当たり投稿本数)を短期的な継続的意欲を表す指標として考える。次にこの投稿公開成果が市場からの反応であるファンコミュニティ(投稿プラットフォームの登録者数やフォロワー数)にプラスに影響する。このコミュニティサイズが2つの収益(間接的,直接的)にプラスに影響するが,間接的収益の増加は直接的収益も増やす迂回的な経路も仮定する。ここで「間接的収益」とは登録者数や動画総再生時間に応じてプラットフォーム企業からアフィリエイト(成果報酬)型の広告収入として主に支払われる報酬であり,「直接的収益」とは広告以外で投稿者が自らライブ配信から得るスーパーチャット(投げ銭),有料会員化による課金収入,さらに企業からのPR案件で得る収入などを指す。

4つの動機づけ要因から投稿公開成果に影響するパスの仮説として,上記の先行研究を参照し,「内発的動機づけ(自律性,関係性,有能感)」から投稿公開成果への影響は短期的な継続意欲を示す「投稿公開頻度」にはプラスに働き(H1-2)(Rach, 2021),長期的な経験量である「投稿公開本数」にはマイナスに働くパスを仮定する(H1-1)(Daugherty et al., 2008)。実際に収益を得ている投稿者にとって経済的インセンティブが短期的に投稿本数や頻度を増やすと同時に,長期的にはDeci(1971)の提唱するアンダーマイニング効果から内発的動機づけが低減する影響を仮定した2)。他の動機づけ要因は全てプラスのパスを想定した(H2-1~H4-2)。「社会的承認」「利他的主義」「経済的インセンティブ」の要因はいずれも投稿者の投稿公開成果をプラスに促進する影響を考える(Poch & Martin, 2015Burtch et al., 2022)。また「知識・経験的な(知覚)能力」も2つの投稿成果にプラスの影響を想定する(H5-1,2)(Wang & Li, 2014)。次に2つの投稿公開成果は市場反応である顧客ないしファンのコミュニティの代理的指標である「登録フォロワー数」にプラスに影響(H6-1,2)し(Bründl & Hess, 2016),「登録フォロワー数」から収益成果には「間接的収益」にプラス(H7),また2つの収益間には「間接的収益」から「直接的収益」にプラスの影響(H8)をそれぞれ想定した(Kopf, 2020Hua et al., 2022)。これらの潜在変数を構成する観測変数は表1左欄に示し,質問項目は5段階スケールで設計する。

表1.潜在変数の因子分析(EFA,CFA)と収束・弁別妥当性


次に,モデル設計に組み込む投稿公開成果,市場反応,収益成果に属する観測変数(コンテンツ数やフォロワー人数,収入金額)は全て実数値を使用し,その回答を対数変換したスケールを用いる。また今回の研究では動画投稿ユーザーの経験や熟達度でモデルのパス影響に差が生じることを想定し(片野・石田,2017),経験量の指標として投稿公開の本数を用い,ビギナーとエキスパートの2グループに区分して,モデルパスの差についてパラメーター間の一対比較も検討する。この経験量の違いとして,エキスパートグループはファンコミュニティの指標となる登録フォロワー数から間接的的収益へのパス(H’7-1)と,直接的収益への経路(H’7-2)がビギナーよりも強くなると仮定する。エキスパートはファンコミュニティサイズが大きく2つの収益を得る力がより強いと考えるからである。次に経験量の少ないビギナーグループはソーシャルメディアを含む社会からの承認欲求がより強く2つの投稿成果にプラスで影響すると仮定する(H’2-1,2)。ビギナーにとって社会的承認の欲求はUGCの投稿行動を始める大きな動機になると予想される。同時にビギナーはエキスパートに至る初期段階なので,知覚する知識・経験的能力から2つの投稿公開成果(投稿公開数,投稿公開頻度)へのパスがビギナーでより強くプラスに働くものと仮定する(H’5-1,2)。ビギナーにとって自分の能力が高いという知覚はエキスパートよりも,その手応えや確信が初期の投稿行動を支えるものと考える。

3.2  データと測定方法

個人またはグループで活動し,企業組織に所属せず,動画・映像コンテンツを制作して投稿プラットフォームに公開し,収益(副業,本業問わず。活動期間0.5年以上,過去1年以内に収入あり)を得ているユーザー(調査会社楽天インサイトモニター)を対象に,インターネット質問紙調査を実施し(2022年11月配信と回収),有効回答300を回収した。男性62%,女性38%,年齢割合は40代45%,30代34%,20代19%ほかであった。プラットフォーム別の投稿割合はYouTube 44%,Instagram 14.7%,Twitter 12.7%ほかであり,主として投稿するプラットフォームを1つに絞って回答してもらっている。活動期間(月数)の回答は平均17.7カ月であり,うち収益を得るまで平均8.5カ月,収益後の期間は平均9.2カ月であった。

表1のとおり,潜在変数は探索的因子分析(EFA)を実行して5つの因子を抽出後(主因子法,プロマックス回転,累積寄与率78.7%)に確認的因子分析(CFA)にかけ,各因子の収束妥当性(CR:合成信頼性)と弁別妥当性(AVEと因子間相関との比較)を確認して妥当性の維持を確認した(因子間相関行列の2乗値は0.259~0.525)。続いて投稿公開成果,市場反応,収益成果に関する観測変数を加えて構造方程式モデリング(共分散構造分析)の計算に進んで適合度指標を計算し,モデルの妥当性を確認した(χ2 = 363.3,d.f. = 189,p < 0.001,GFI = 0.903,AGFI = 0.870,CFI = 0.962,RMSEA = 0.056)。次に全体モデルを投稿本数の分布(平均値1,875本,標準偏差28,874)から中央値10本を境界に,10本以下をビギナー(N = 167),11本以上をエキスパート(N = 133)の2グループに分割し,この多母集団同時分析を実行した(適合度指標:χ2 = 725.3,d.f. = 400,p < 0.001,GFI = 0.828,AGFI = 0.783,CFI = 0.929,RMSEA = 0.052)3)

4  仮説の検証と考察

モデルのパス係数について表2で全体モデルと2グループの各パスの標準化推定値,および全体モデルのパス検定とグループ間パスの差のZ検定を示す。

表2.モデルパス係数の標準化推定値とグループ間の差の検定

(N = 300,ビギナー167 エキスパート133)


内発的動機づけは,投稿公開本数にマイナス(−0.28)で有意に影響してH1-1は支持され,経験グループ別にみるとエキスパートのパス係数が大きくマイナス(−0.30)に働いていた。反対に投稿公開頻度へのパスはプラス(0.27)に有意に働き,H1-2も支持された。社会的承認は投稿公開本数にマイナス(−0.34)に有意に影響したためH2-1は不支持であるが,グループ間でエキスパートのパス係数が大きくマイナス値(−0.53)で働いた結果であり,ビギナーとの差のZ検定は有意となった(H’2-1支持)。社会的承認から投稿公開頻度のパスは有意な影響なし(H2-2不支持),かつグループ間で想定した差も有意とはならなかった(H’2-2不支持)。続いて利他的主義は投稿公開本数にプラス(0.51)に強く有意に働き(H3-1支持),かつエキスパートがプラス(0.69)で大きく影響してグループ間の差も有意となり,これは仮説にない発見となった。利他的主義から投稿公開頻度のパスは有意な影響がない(H3-2不支持)。経済的インセンティブは投稿公開本数(0.32)と投稿公開頻度(0.29)ともにプラスで有意に影響した(H4-1,2支持)。知識・経験的能力から投稿公開本数のパスはプラス(0.31)で有意に影響した(H5-1支持)。グループ間ではビギナーの値が大きく差は有意となった(H’5-1支持)。投稿公開頻度へのパスは全体で影響なしだったが(H5-2不支持),グループ間ではビギナーの値が大きく,その差の検定も有意となった(H’5-2支持)。

次に投稿公開本数から登録フォロワー数(ファンコミュニティ)のパスはプラス(0.65)で強く有意に影響した(H6-1支持)。投稿公開頻度から登録フォロワー数のパスもプラス(0.17)で有意に働く(H6-2支持)。市場反応では登録フォロワー数から間接的収益のパスはプラス(0.38)で有意に影響してH7は支持されたが,グループ間の差は有意でない(H’7-1不支持)。最後の登録フォロワー数から直接的収益へのパスは全体の影響はない(仮説なし)が,グループ間でエキスパートがプラスで大きく差が有意となった(H’7-2支持)。そして間接的収益から直接的収益へのパスはプラス(0.78)で強く影響しており,H8は支持された。登録フォロワー数から収益への影響経路は,全体では間接的収益を経て直接的収益につながり,ユーザー経験別ではエキスパートで直接的収益にもつながる経路を確認できた。

以上,投稿ユーザーの動機づけと能力が先行してコンテンツの制作と投稿行動が実現し,その投稿実績が市場(顧客)の反応と支持をよび,それが収益化に結びつくというユーザー行動の論理的なプロセスを基にモデルを設計し,これを検証した。一方で観測データは時系列ではないため,この因果関係の検証は限定的である。

5  本研究の貢献とまとめ

本研究の貢献は,動画コンテンツの投稿ユーザーが収益を得るプロセスを動機づけ要因と能力から投稿成果,さらにファンコミュニティの形成を経て2つの収益に至るルートを体系的にモデル構築して実証したことに加え,ユーザー経験の違いを見出した点にある。

理論的貢献は,ユーザー経験の違いで社会的承認と利他的主義,また知覚する知識・経験的能力が動的に変化する効果を示した点にある。経験量が増えると社会的な承認欲求の影響が下がり,他方で利他的主義が投稿行動を促進するようになる。また知識・経験的能力の知覚は投稿量に影響しなくなる。一方で内発的動機づけの投稿成果への影響について,短期的な投稿頻度にはプラスに,長期的な投稿量にはマイナスに働く効果を確認し,先行研究で内発的動機づけの異なる影響を整理できた。ファンコミュニティの拡大は広告収入など間接的収益を増やす一方,エキスパートはライブ配信や企業PRの受託など自立した活動で直接的収益を得る力が示唆され,収益化モデルの基礎を提示できた。

実務的貢献として,ユーザーの活発なコンテンツ投稿を促したいプラットフォーム企業にとって,経済的インセンティブが依然,投稿を促す重要な動機づけ要因であり,また投稿ユーザーからみればファンコミュニティの拡大が直接的収益の道を広げるという示唆を提供できた。さらに,このUGCを活用する企業からみれば,インフルエンサーの利他的主義が投稿行動を促進する仕組みの検討が有効だろう。

今後の課題として4つを挙げる。まず,モデルの検証は時系列データではなく観測データであるため,その因果関係を説明するには限界がある。モデルの想定と異なり,実際の行動には投稿ユーザーのアカウントの登録フォロワー数が増えると投稿本数を増やし,それが経済インセンティブほかの動機づけ要因をさらに高める経路もあるだろう。その意味でここでの結論は論理的な因果プロセスを限定的に検証したのにすぎないことから,同一被験者に対して時系列で質問を再度繰り返すことで変数値の変化を見ていく必要がある。

第2にモデル内の影響として内発的動機づけが活動期間に与える動的な変化と経済的インセンティブとの関係で投稿成果に与える心理的な影響,特にアンダーマイニング効果について詳細に追加分析する必要がある。第3に,本研究の収益化モデルを動画コンテンツ以外の幅広いUGC(音楽や写真・イラスト,小説等)に拡張して,コンテンツ別に比較検討する必要がある一方,YouTubeやインスタグラムなど動画投稿のプラットフォーム別の差異も見ていく必要がある。また第4にUGCをインフルエンサーとしてビジネスやマーケティングに活用したい企業側からみて,本研究をインフルエンサーマーケティング研究の成果と関連づけて位置づけることも重要である。

 謝辞

論文の修正と採択にあたり,編集委員会委員長とレフェリーにお世話になりました。 本研究はJSPS科研費21K01769の助成を受けています。

1)  YouTubeパートナー(収益化)プログラム(YPP)の資格条件は,チャンネル登録者数1,000人以上,直近12カ月の動画総再生時間4,000時間以上(または直近90日のショート動画視聴回数1,000万回以上)であり,収益化の方法として間接的収益(広告収入)と直接的収益(チャネルメンバーシップ,ショッピング等)が設定されている(2023年2月時点,https://support.google.com/)。

2)  アンダーマイニング効果は,人間が金銭や地位など外的な報酬を与えられると,活動本来の意義や楽しさが後回しにされて内発的動機が抑制される心理学の概念である(Deci, 1971)。

3)  構造方程式モデリング(SEM)の計算にはR言語のlibrary(psych,lavaan,semtools,semplot)のほか,IBM SPSS Amos ver. 25を併用した。5つの因子の抽出については,ハーマンの単一因子テストからコモンメソッドバイアスの程度を改めてEFAから確認したところ,固有値1以上で抽出された5つの因子のうち第1因子の寄与率は44.2%となり,測定値間の共分散が50%を下回るので許容範囲とみなした(Podsakoff, MacKenzie, & Podsakoff, 2003),また多母集団同時分析では,2グループそれぞれのモデル適合度を計算して良好あるいは許容の水準を確認した後に配置不変性の確認に進み,その適合度指標からこのパス解析モデルが2つの母集団(ビギナー/エキスパート)に共通して配置不変が成り立つ可能性が高いと判断した(豊田,2007)。

参考文献
 
© 2025 日本商業学会
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