日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第57回日本衛生動物学会大会
セッションID: SL2
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特別講演 1-2
マダニの吸血を阻害する抗ダニワクチン
*小沼 操
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抄録
 ダニは、嫌われ者である。それはダニが人や家畜に寄生し、吸血する害虫と考えられているためである。人や動物を吸血する大型のダニ(マダニ)は、吸血時に病原体を伝播し、感染症を媒介する。例えばウイルスによるダニ媒介性脳炎、細菌によるライム病、リケッチアによる日本紅斑熱、Q熱、エーリッキア症、原虫によるバベシア症などはすべてマダニの吸血によって媒介される。これら疾病は人獣共通感染症としても知られている。  マダニの吸血を阻害できれば、マダニによって媒介されるウイルスや原虫すべての病原体を一気に防げるのではないか、と考えた。 マダニは動物の皮膚に針を差し込み、10〜14日あまり吸血を続ける。その間にマダニは、その唾液腺から多種の生理活性物質を動物体内に注入する。マダニの唾液には血液凝固阻害分子、血管拡張分子、免疫抑制分子、セメント物質など多くの生理活性分子を含んでいる。これによって動物から長い間吸血できる。吸血を開始して4〜5日すると、マダニ唾液腺内のウイルスや原虫などの病原体が、動物体内に注入され感染が成立する。  これらダニ由来生理活性分子でワクチンすることにより、ダニの吸血阻害と同時にダニ媒介性病原体の伝播も阻止できるものと考えた。そこでダニ由来遺伝子をクローニングし、組み換え蛋白を発現させその抗ダニワクチン効果を検討している。方法は以下の通り。1)ダニ吸血に抵抗性となった動物血清と反応するダニ分子、2)ダニ由来血液凝固阻害分子(セリンプロテアーゼ・インヒビター、セルピン)、3)吸血刺激により新たに発現する唾液腺由来分子。 これまでに1)により抗ダニ効果のあるセメント物質、p29とHL34を、またアナフィラキシーを誘導するp84を得ている。2)のダニのセルピンとしてHLS1とHLS2を得ており、それぞれ抗ダニ効果を認めている。 3)については得られた遺伝子の大半が分泌シグナルを持った未知の分子であり、発現させその生物活性を検討している。これらの分子は単独で動物に免疫(ワクチン)しても、明らかにマダニの吸血を阻害し、マダニは途中で死亡した。  マダニの吸血による家畜伝染病の被害は、日本ではあまり顕著ではないが、中南米や南部アフリカでは想像を絶する。私達の研究室では、数年前よりザンビアの研究者と抗ダニワクチンの共同研究を行っている。マダニ由来の蛋白質を混合物にして免疫することにより、ダニ媒介性伝染病の伝播阻害を試みている。 この研究が成功すればアフリカや中・南米のダニ媒介性感染症は制圧され、家畜伝染病による貧困を解消できることは間違いなく、画期的なものとなろう。
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© 2005 日本衛生動物学会
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