日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第58回日本衛生動物学会大会
セッションID: B22
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人工膜吸血装置によるコロモジラミへのBartonella quintana感染実験
*関 なおみ葛西 真治佐々木 年則冨田 隆史佐々木 次雄小林 睦生
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抄録

塹壕熱(Trench fever)はコロモジラミ(Pediculus humanus)によって媒介される感染症の一つで、近年先進諸国の都市部路上生活者等の集団における蔓延が認められている。本感染の伝播はコロモジラミ体内で増殖した病原体(Bartonella quintana)が排泄され、これが掻破した皮膚より侵入することで成立すると考えられているが、コロモジラミ体内及び排泄物に存在するBartonellaの菌量について、現在までに詳細な研究が行われていない。葛西ら(2004)はヒト血液を使用した人工膜吸血装置を開発し、コロモジラミ成虫を約3週間飼育することに成功した。今回Bartonellaのコロモジラミにおける増殖動態を明らかにするため、本装置を利用したコロモジラミへのB. quintana感染実験を行ったのでその結果を発表する。血液寒天培地で1週間培養されたB. quintana(Mr.Hasseni株)をphosphate buffer salineで回収し、これをヒト血液と十分に縣濁させ、人工膜吸血装置を使ってコロモジラミ成虫に吸血させた。その後このコロモジラミを非感染血液で3週間飼育し、定期的に虫体と排泄物を採取した。経時的なBartonella増殖動態をReal time Polymerase Chain Reaction 法で推定するため、遺伝子配列より特異的プライマーを設計し、検体より市販の抽出キットを用いてDNAを抽出した。コロモジラミ体内の増殖はBartonella intergenic spacer region DNAの増幅量をコロモジラミのナトリウムチャンネル DNAの増幅量との比で算出した。また排泄物中のBartonella菌体数を1頭当り24時間の排泄量として測定した。コロモジラミ体内及び排泄物におけるBartonella DNAは感染吸血後持続的に検出され、3週間後のコロモジラミ及び排泄物からも陽性が確認された。またDNA増幅量は病原体を含んだ血液を吸血後約2日で低下し、その後約1週間より緩やかに増殖する傾向が認められた。

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© 2006 日本衛生動物学会
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