抄録
戦前戦後のいわゆるマラリア5県として注目された県の中で、最後までマラリアが流行していた滋賀県琵琶湖周辺でマラリア媒介蚊の調査を行い、蚊相を明らかにして,それに及ぼす土地利用の変化を検討した。調査対象地域は琵琶湖湖畔で患者の多かった彦根市をはじめ東近江市,安土町,近江八幡市で、蚊捕獲期間は2009年5月29日から10月4日で、3週間ごとに、ドライアイス1kgを誘引源としたCDCトラップによる2夜連続の捕集を行った。捕集地点については、彦根城の濠、水田地域、内湖・河川流域のヨシ原などの湿地および水域など、土地利用の異なる3地区を選び20定点を設定した。牛舎における東京エーエス社製ライトトラップは、昨年に引き続き彦根市の水田地域内乳牛牛舎、近江八幡市の元大中の湖縁辺部の肉牛牧場、近江八幡市中の牛乳製造販売酪農家牛舎の計3ヶ所に設置した。
CDCトラップ20台については全雌捕集数73,049個体のうちコガタアカイエカが89.1%を占め、その他アカイエカ、シナハマダラカ、ヒトスジシマカなど計11種類が捕集された。捕集数や種類、その季節消長には地域差が確認された。ライトトラップではコガタアカイエカ雌223,518個体,シナハマダラカ雌18,640個体が捕集され、シナハマダラカのコガタアカイエカに対する割合は7.1-20.4%であった。なお形態的にはオオツルハマダラカと同定された個体に関して分子診断を行った結果、全てシナハマダラカであった。チョウセンハマダラカは昨年幼虫が採集された地点で成虫が捕獲された。CDCトラップの蚊捕獲数の地域差と景観の解析は本大会で米島らが発表する。調査地区のうちハマダラカが最も多く捕獲された西の湖周辺地区について、1961年から2006年までの空中写真6枚で土地利用を復元した。これらのデータからハマダラカの吸血飛来ポテンシャルマップの作成を検討中である。