抄録
イネを加害するトビイロウンカ,セジロウンカ,ヒメトビウンカ(以下,ウンカを略す)のうち,トビイロとセジロは日本で越冬不可能で,毎年梅雨期にベトナム北部や中国南部から長距離移動して日本に飛来する。これに対してヒメトビは日本でも越冬可能で,長距離移動による大量飛来は知られていなかった。しかし,2008年に西日本で中国江蘇省を飛来源とするヒメトビの大量飛来が観察された。中国江蘇省を中心に近年大発生しているヒメトビが,6月上旬頃にコムギの刈り取りによって移出し,低気圧に伴う西風によって日本や韓国(2009年)に飛来したことがわかった。 ウンカ類はイネに吸汁害を起こすとともにウイルス病を媒介する。トビイロはイネラギットスタント病(RRSV)とイネグラッシースタント病(RGSV)を,ヒメトビはイネ縞葉枯病(RSV)とイネ黒すじ萎縮病(RBSDV)を媒介する。ウンカ類の長距離移動はこれらのウイルス病の海外からの侵入を可能にする。トビイロが媒介するRRSVとRGSVは近年インドシナ半島南部で多発しているが,日本では1970年代末に九州の数県で確認された後は未発生であったが,2010年に長崎県でRRSVが確認された。また,2008年のヒメトビの大量飛来後に西日本各地でRSVが多発生し,長距離移動による媒介ウイルス病の多発生が初めて確認された。セジロが媒介するウイルス病はこれまで知られていなかったが,新種ウイルスによるイネ南方黒すじ萎縮病(SRBSDV)を媒介することが2008年に報告され,ベトナム北部や中国南部で2008年以降,発生が拡大した。日本では2010年8月以降に九州6県と中国地方2県でSRBSDVの発生が初めて確認された。セジロは日本全国に毎年多数飛来するため,今後もこの新たなウイルス病の発生拡大が懸念されている。以上のような,ここ数年新たな問題が起こっているウンカ類の長距離移動によるウイルス媒介の概要を紹介する。