日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第64回日本衛生動物学会大会
セッションID: S02
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第64回日本衛生動物学会大会
甲府盆地の宮入貝について
*薬袋 勝
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抄録

1881年春日居村(現.笛吹市 )より県令に提出された「御指揮願い」に始まった,山梨県の地方病(日本住血吸虫病)対策は,1996年の「流行終息宣言」により約110年わたる行政上の対策は終了した.現地に残る「中の割に嫁に行くなら,買ってやるぞえ経帷子に棺桶」等の口碑が示すとおり甲府盆地においては,日本住血吸虫病の流行は,凄惨を極めていた. 虫体(1904),経皮感染(1909)及び宮入貝(1913)の各発見により対策は,急速な成果を上げるようになり,特に寄生虫予防法(1931)を背景とした国費投入による宮入貝主対策は,1996年まで主流を占めた.駆虫による対策も積極的に行われたが,強い副作用により,他の寄生虫対策の様な確実な成果を上げる事が出来なかった.また,牛,犬,野鼠等の保虫宿主の存在は,終宿主対策を難くし,中間宿主対策が中心を占る要因となった.宮入貝生息調査,薬剤散布等の中間宿主対策作業には,大量動員が必要となるが,対策組織を作り流行地住民の参加を促した.この動員(一軒当たり 1人)は,住民の本病に対する意識強化が図られ,大部分の人々が本病の基本的な知識を持つようになった.この結果,強い住民意識として定着し,対策促進の助けとなった.多額な資金が必要となる,宮入貝生息地水路の全面コンクリート化の実現も,住民パワーより実現した. 地方病対策が完成した現在,一部地域に残存している宮入貝による,再流行の可能性の監視及び対策による環境改編が引き起こした生態系の変化の復旧は,今後の課題となっている .

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© 2012 日本衛生動物学会
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