日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:重症心身障害児者の喘鳴と気管支喘息
重症心身障がい児(者)における気管支喘息の治療
佐藤 一樹西牟田 敏之
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2011 年 36 巻 2 号 p. 253

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抄録
はじめに 重症心身障がい児(者)は、基礎となる疾患、病態は様々であるが、障害の重症度があがるほど、喘鳴を伴う呼吸障害を呈することが多い。喘鳴を呈する障がい児(者)において、治療の観点からも鑑別が重要であるが、喘息の鑑別は必ずしも容易ではない。また、気管支喘息に、誤嚥や上気道閉塞などの喘鳴を呈する疾患を合併している場合も少なくないため、注意を要する。重症心身障がい児(者)の喘息治療を考える際には、一般の小児もしくは成人の喘息治療と共通な部分と、重症心身障がい児(者)に特有の部分に分けて考えるとわかりやすい。  急性発作への対応 通常の喘息治療と共通な点は、薬剤の選択である。β2刺激薬内服・吸入を第一選択とし、ステロイド薬内服・静注、輸液、酸素吸入、イソプロテレノール持続吸入を使用する。テオフィリン製剤は、てんかんなどの合併のある際は、けいれん誘発、抗けいれん薬との相互作用に注意する。重症心身障がい児(者)に特有な問題点は、上気道閉塞による呼吸困難や喘鳴の合併が多いこと、慢性的な気管支炎や嚥下障害などによる通常の喘息以上に過剰な気道分泌物、胸郭変形や側湾に伴う呼吸制限により容易に呼吸困難を来すことなどである。発作の薬物療法を行う前に、体位変換や分泌物の吸引、理学療法を十分に行い、効果を評価する。  長期管理 長期管理においても、共通の点は、薬剤の選択である。抗炎症作用のある薬剤を治療の中心とし、ロイコトリエン受容体拮抗薬、吸入ステロイド薬が主な薬剤療法となる。特有の問題としては、吸入療法におけるデバイスの選択がある。年齢にかかわらず、ドライパウダーの吸入は困難であり、MDI製剤+スペーサーまたはブデソニド吸入液が選択となる。慣例的に超音波ネブライザーを用いる施設も少なくないが、ブデソニド吸入液吸入には適さず、β2刺激薬吸入も、一般の喘息患者と同様、超音波式ネブライザーは奨励できない。気管切開や人工呼吸管理中の患者でも、特定のスペーサーを用い、呼吸器回路や挿管チューブに接続すれば、MDI製剤による治療が可能である。また、過剰な分泌物などの合併症の対応は、急性発作の治療と同様に重要で、呼吸理学療法を積極的に導入するとよい。肺内パーカッションベンチレーターや陽陰圧式体外式呼吸器などの呼吸療法機器も有用である。他の問題として、呼吸機能や呼気NOなどの長期管理の指標は用いることができないため、症状のみの評価となる点がある。長期管理を4週間程度行っても、十分な改善が得られない場合は、長期管理薬を増量する前に、基本に立ち返り、喘息以外の喘鳴を来す疾患との鑑別、前述の合併症の評価や対応を十分に行うことが必要である。 略歴 H4年(1992年) 千葉大学医学部卒業 H5年(1993年) 同小児科入局 H11年(1999年)より 独立行政法人国立病院機構下志津病院 小児科勤務 H20年(2008年) 〜 同院 アレルギー科医長   日本アレルギー学会専門医
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