日本重症心身障害学会誌
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ランチョンセミナー2:重度痙縮患児(者)の治療意義と治療法選択のポイント
重度痙縮に対する外科治療法の選択
師田 信人
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2011 年 36 巻 2 号 p. 263-264

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抄録
痙縮は重症心身障害児(者)の日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮に由来する疼痛により更に痙縮が増悪する負の連鎖を形成する。それゆえ、痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持つ。 国内では、従来痙縮そのものに対する治療はなく痙縮に由来する2次的運動(器)障害に対して神経リハビリテーション・整形外科手術が施行されてきた。しかし、この10年余りの間に痙縮治療そのものを目的とする脊髄後根切断術、バクロフェン髄注(Intrathecal Baclofen: ITB)療法、ボツリヌス毒素局所注入療法(BTx)が相次いで導入され、海外レベルでの標準的痙縮治療が施行可能となった。このような背景のもとに、どの治療法を選択するか、各治療法をどう組み合わせるかが今後臨床の現場で重要になってくる。 痙縮治療の進め方を図に示す。痙縮治療に当たっては、各治療法の位置づけを明確にする必要がある。第1段階の痙縮治療で痙縮を改善し、第2段階で機能改善を図る。脊髄後根切断術は、1度の手術で長期に渡る痙縮軽減を得ることができる。神経根を切断するため手術にはそれなりの経験が必要であるが、痙直型脳性麻痺由来の痙縮に対しては極めて有効な治療手段である。ITBはポンプ及びカテーテル埋込が必要になるものの、バクロフェン投与量の調節が可能であり、治療適応範囲が広い。非典型的痙直型脳性麻痺、あるいはジストニアの要素も併せ持つ痙縮(脳炎、低酸素血症後脳症、頭部外傷後など)では第1選択の治療法となる。重症心身障害児(者)の原疾患を考慮すると最も適応が高い治療法と思われる。 重度痙縮に対しては、脊髄後根切断術、ITBにより痙縮の軽減を図り、局所的な痙縮に対して必要に応じてBTx治療を追加することが望ましいと思われる。ただし、手術適応となる2歳後半から3歳過ぎまではBTxを用いて痙縮に由来する2次的関節脱臼・変形・拘縮を予防する必要がある。 中枢神経系由来の痙縮は、原疾患由来のため従来は積極的な治療対象と捉えられていなかった面がある。しかし、痙縮をコントロールできると合併症・介護負担・疼痛の軽減につながり多方面に恩恵がもたらされる。一方で、痙縮の治療は単一の治療法で完結するものでなく、状況に応じて各治療法を組み合わせることもかかせない。そのためにも痙縮に対する包括的治療体制の確立が望まれる。 国内における痙縮治療は端緒についたばかりであるが、重症心身障害児(者)、とりわけ小児領域で適応の高いITB療法の普及は極めて不十分であり、今後はこの方面での関係者の認知と理解が必要と思われる。今回の講演が、重症心身障害児(者)における痙縮治療の重要性を喚起する機会となることを願っている。 略歴 1981 信州大学医学部卒業 山梨勤労者医療協会初期研修 信州大学脳神経外科及び関連病院 この間1986-1987 兵庫県立こども病院にて小児神経外科研修 1991-1995 New York University Medical Center (Division of Pediatric Neurosurgery) 1995-1996 亀田総合病院脳神経外科医長  1996-1999 愛知医科大学脳神経外科講師  1999- 2002 国立療養所西新潟中央病院脳神経外科医長 2002-現在 国立成育医療研究センター脳神経外科医長  専門分野 小児神経外科 脊髄外科 機能神経外科(てんかん、痙縮、術中神経生理学的手技)
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