日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム3:重症心身障害に対する看護の成果と課題
地域支援(訪問看護)の立場から
島田 珠美
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2016 年 41 巻 1 号 p. 43-44

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抄録
訪問看護の立場から、「重症心身障害児(者)(以下、重症児)」への訪問看護の現状と課題について考察する。 訪問看護ステーションは、1992年に老人訪問看護ステーションとして発足し、2年後の1994年に健康保険法でも訪問看護ステーションが認められ、年齢の制限がなくなり、難病や末期癌、重症児への訪問が可能となった。2000年介護保険導入とともに訪問看護は介護保険サービスとしても位置づけられ、対象者は要支援・要介護者にも広がった。訪問看護ステーション発足当初は看護師が開業することの安全性が議論されたが、現在は2025年問題に向けて地域医療の中で一定の役割を担うようになってきている。訪問看護ステーション数も一時は減少傾向にあったが、国の後押しもあり、ここ数年は増加に転じている。 重症児への訪問看護も、1994年当初は行うステーションが少なく、その後もなかなか小児科領域の利用者の受け入れが進まない状況があったが、少しずつ状況は改善しており、重症児を中心に訪問看護を行っているところや、5歳以下の小児のみを対象とする訪問看護ステーションもでてきている。しかし、訪問看護ステーションに勤務する看護師は、全就労看護師の2%に過ぎず、その中で重症児に対応してくれる訪問看護師は多くない。 2007年の日本小児科学会倫理委員会の調査1)によると、超重症児のうち、人工呼吸器を使用している児は31%で約半数は在宅であった。気管切開をしている児は54%で6割は在宅であった。訪問診療を利用しているケースは7%、訪問看護の利用は18%と少なく、家族ケア、それも母親が主にケアを行っており、父親の参加すら35%と少なかった。 在宅では看護だけでは解決できない問題も多い。多問題家庭、虐待、貧困、サービスの不足など様々な問題がある。地域の中で働く看護職が問題に直面したときには、必要な機関と連携して対応している。福祉職とのコミュニケーションスタイルの違いから、看護職はときとして福祉職から敬遠される存在となっている。重症児は年齢に応じて対応する機関も変わってくる。それに応じて訪問看護ステーションも様々な地域の連携機関が必要となる。看護職もコミュニケーション能力を高め、地域で必要な機関との顔の見える関係作りを行っていく必要がある。 20世紀「病院の時代」から21世紀「地域包括ケアシステム」の時代に移行してきており2)「介護職員等による痰の吸引等」、「特定行為に関わる看護師の研修制度」と法改正が行われている。今後の超少子超高齢社会を迎える中で、労働人口の減少は深刻な問題である。その中で、医療・介護チームの中で権限と責任の委譲、新職種の創設を伴う役割分担である「スキルミクス」という概念が注目されつつある。医療技術の進歩は新たな役割を必要とする。医療依存度の高い利用者が増えれば、学校や施設など地域の中で、医療的ケアや医療処置も必要となる。「介護職員等によるたんの吸引等」も「看護師の特定行為」も多職種間での連携や役割分担が重要である。特に「介護職員等によるたんの吸引等」は、医療職と介護や保育・教育職など非医療職との連携となり、難しさもある。各職種間での情報共有や協働が必要であるが、連携の要となる相談支援専門員が足りない。2015年度には、総合支援法でサービスを利用するすべての障害児(者)は、相談支援を利用することになったが、自治体によって整備状況は異なっており、川崎市や横浜市などの大都市では、相談支援専門員は大幅に不足しており、特に小児に関わる相談支援専門員が少ない。今後、両親が相談できる機関として、また、地域の中での連携を強化する上でも、相談支援専門員の充足が必要である。 医療的ケアの必要な児は増え続けており、学校での医療的ケアも増えている。医療的ケアをめぐっては、モデル事業も含めて長い経過があった。その中で東大和市の気管吸引が必要な児の保育園入園をめぐっての判決は意義のあるものであったと考える。 この裁判は、「看護師が付きっきりで看護できない」などとして保育園入園を拒否された女児とその両親が2004年11月、同市に入園を認めるよう求めて提訴したものである。東京地裁は2005年1月、同市に保育園の仮入園を認めるよう命令し、2005年10月の判決でも、「身体的・精神的状態や発達は、障害のない児童と変わりない」、「看護についても付きっきりの必要はない」と判断し、正式に入園を認めるよう命じた。同市は判決を受け入れ、2006年1月には小学校の入学も許可した。 この判決を受けて、保育園や学校も医療的ケアの必要な児を受け入れる体制を、少しずつではあるが整えるようになってきている。しかし、それでも重症児が利用できるサービスは限られており、両親の負担が大きい。足りないサービスや制度を自治体等が作るように働きかけることも必要である。 川崎市では、重度障害のある方で、超重症児のスコア3)で、おおむね20点以上であり、ADLは座位までの方の場合、医療保険の訪問看護に市の単独事業である「重度障害者訪問看護サービス等支援事業」を上乗せすることで、3時間連続して滞在することが可能である。また、医療的ケアの必要な児で、家族が毎日、医療的ケアのために学校に行く必要がある小学生~中学生に対して、1回/週に限っているが、1回90分、または120分、訪問看護ステーションから看護師が訪問できる。これは、長年に渡り、父母たちが、教育委員会に要望を出し続けた結果が制度につながっていったと言える。必要なサービスがない場合は、要望書などを自治体や厚生労働省に出し続けることで、時間はかかるかもしれないが、制度化につながることもある。 訪問看護はその提供の場が自宅、もしくはそれに準じるところとなっており、サービス提供の場は限定されているが、自費での訪問や有償ボランティアも含めると、その提供の場所は拡大されてきている。一部の自治体では長時間の滞在を認めていたり、学校への訪問看護が可能になっているところもある。各地域でのその地域の事情に合った地域包括ケアシステム作りが大きな課題である。必要なサービスは声を上げて、作っていくことも重要である。 まとめ ・重症児への訪問看護提供者は増えてきているが、十分ではない。 ・ 地域の中で多職種との連携が必要であるが、相談支援専門員も足りず、十分な連携を取れていない場合もある。 ・各地域で地域の実情を反映し、多職種との連携・協働を核とした地域包括ケアシステムの構築が必要である。 ・訪問看護サービス提供の方法や場も少しずつ拡大している。
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