日本重症心身障害学会誌
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教育講演1
重症心身障害児(者)のてんかん治療における新規抗てんかん薬の適応
須貝 研司
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2019 年 44 巻 1 号 p. 15-22

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抄録

Ⅰ.はじめに 2006年以降、新規抗てんかん薬としてガバペンチン(GBP)、トピラマート(TPM)、ラモトリギン(LTG)、レベチラセタム(LEV)、スチリペントール(STP)、ルフィナミド(RUF)、ビガバトリン(VGB)、ペランパネル(PER)、ラコサミド(LCM)が使用可能になったが、STPはDravet症候群、VGBはWest症候群のみの適応で、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))となる前の疾患への適応なので除いて、重症児(者)のてんかん治療におけるその適応と長所、問題点について述べる。 Ⅱ.重症児(者)のてんかんの問題と対応1) ①West症候群後のてんかん、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群、新生児仮死や細菌感染症・急性脳炎・脳症後遺症など、難治てんかんが多い。さらに、West症候群、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群なども変容しており、これらの症候群に対する定型的な治療は当てはめられない。したがって、発作症状で薬剤選択をする必要がある。類似の発作症状の場合、詳細な脳波判読はできなくてもよいので、脳波所見が全般性か焦点性かを判断し、それをもとに全般発作か焦点性発作かを鑑別して薬剤選択をすればよい2)。 ②気がつかれやすいか否かのためもあるが、強直発作、強直間代発作、ミオクロニー発作、脱力転倒発作が多く、複雑部分発作や非定型欠神発作などは少ない。このような発作に対する薬が多く必要となる。 ③抗てんかん薬が多剤併用になることが多く、そのため抗てんかん薬同士の相互作用に注意を要する。 ④合併症、併存症が多いため多種類の抗てんかん薬以外の薬(向精神病薬、一般薬)を服用していることが多く、抗てんかん薬との相互作用に注意を要する。 ⑤自分で訴えられないために副作用に気がつかれにくいので、使用している抗てんかん薬の副作用を念頭に置いて早期発見に努めることが重要である。 Ⅲ.新規抗てんかん薬の特徴 新規抗てんかん薬はこれらの問題にかなり対応しうる。 1.発作症状への効果 筆者は発作症状に対する薬剤選択は表1のように考えているが、新規抗てんかん薬では、それまで難治だった強直発作、強直間代発作に対しては、LTG、PER、RUF(Lennox-Gastaut症候群に)、ミオクロニー発作にはTPM、LEV、複雑部分発作にはGBP、TPM、LEV、LCMが有効という印象がある。 2.精神症状併存例への対応3)4) 重症児(者)はしばしば興奮、攻撃性をはじめ精神症状を示すが、精神症状併存例に使用を避けるべき薬として、うつ病性障害では、TPM、LEV、不安障害ではLTG、LEV、精神病性障害ではTPM、LEVは避けるべきこと、知的障害、発達障害ではLTGの興奮に注意し、自閉症などの発達障害ではLEVの攻撃性亢進に注意すべきことと、逆に精神症状併存例に使用して良い抗てんかん薬がわかってきた(表2)。 一方で、抗てんかん薬により精神症状を来すことがあり、抗てんかん薬の多剤併用、急速増量、高容量投与時には精神症状を来すことがあるので注意する。エトスクシミド(ESM)、ゾニサミド(ZNS)、プリミドン(PRM)、高容量のフェニトイン(PHT)、TPM、LEVでは急性精神病(統合失調症様の症状であり、幻覚妄想、興奮、攻撃性などを示す)、ベンゾジアゼピン系薬剤の急激な離脱では急性精神病、フェノバルビタール(PB)でうつ状態、精神機能低下、ESM、クロナゼパム(CZP)、ZNS、TPM、LEVでうつ状態、CLBで軽そう状態、LEVで攻撃性亢進(特に自閉症などで)、LTGで不眠、不安、興奮が起こりうる。 3.相互作用5〜9) 新規抗てんかん薬は他の薬(抗てんかん薬、向精神病薬、一般薬ともに)に影響を及ぼさない点は、多剤併用になりやすく、また併存症が多くて種々の薬を飲んでいる重症児(者)にも安心して使える大きな長所である。 なお、ここでは、向精神病薬、一般薬に関しては、主に重症児(者)で使用されるものに限ることにする。 (1)抗てんかん薬 旧来薬でフェノバルビタール(PB)、PRM、カルバマゼピン(CBZ)、PHTは肝臓の薬物代謝酵素を誘導するので多くの新規抗てんかん薬の血中濃度を下げ、バルプロ酸(VPA)は肝臓の酵素を阻害するのでいくつかの抗てんかん薬の血中濃度を上げ、調節を要するものが少なくない。PRMはあまり使われないので表3では省いてある。 新規抗てんかん薬は他の薬にあまり影響を及ぼさず、TPMがVPAを下げ、PHTを上げ、LTGがCZPを下げ、RUFがPB、PHTを上げ、CBZ、LTGを下げ、PERがPBを下げるが、元の抗てんかん薬の量の調節を要するほどではない。 しかし、新規抗てんかん薬自身は旧来薬により大きな影響を受ける。酵素誘導薬剤(PB、CBZ、PHT)は、GBP以外の新規抗てんかん薬を大幅に下げ、またVPAはLTGとRUFを大幅に上げるので、調節が必要になる(表3)。 (2)向精神病薬 重症児(者)の興奮や自傷他害に対する向精神病薬(リスペリドン、ハロペリドール、クロルプロマジン、アリピプラゾール、クエチアピンなど)は旧来薬の血中濃度を上げ、旧来薬により効果が減弱する。多くの場合、大幅な変化ではないが、注意を要する。 新規抗てんかん薬では、LTGはセルトラリンにより下がり、TPMがハロペリドールを上げ、リスペリドンを下げるのみであり、他の相互作用はない(表4、表5)。 (3)一般薬 旧来薬では、PB、CBZ、PHT、バルプロ酸(VPA)の血中濃度は、抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン、ジフェニルヒドラミンなど)、オメプラゾール、ランソプラゾール、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンなど)、アスピリンなどのいくつかで上がり、制酸剤(水酸化アルミニウムなど)、ワーファリンのいくつかで下がる。大幅な変化ではないことが多いが注意を要し、VPAはカルバペネム系抗生物質(メロペネムなど)静注で大幅に下がるので、VPA服用時はカルバペネム系抗生物質の使用は禁忌である。 PBは抗ヒスタミン薬の効果を、VPAはワーファリンの効果を上げ、PB、CBZ、PHTはアセトアミノフェン、モンテルカスト、ジゴキシン、ワーファリン、甲状腺ホルモン(レボチロキシンなど)のいくつかの効果を下げる点は、大幅ではないものの注意を要する。 新規抗てんかん薬では、GBPは制酸剤(水酸化アルミニウムなど)で血中濃度が下がり、LTGはアセトアミノフェンにより下がるのみであり、TPMがジゴキシンを下げるのみである(表6、表7)。 4.腎障害、肝障害への対応10)11) 高齢化に伴い、重症児(者)で肝障害、腎障害は少なくない。抗てんかん薬は主に肝と腎で代謝されるが、薬剤によって異なる。肝障害、腎障害の場合は、血中濃度の上昇に注意し、減量を考慮する。肝炎ではあまり上昇しないが、肝硬変では上昇する。腎透析の場合は、どの薬でも血中濃度は低下する。 臭化カリウム以外の旧来薬(表8上段)とPERは肝障害時に減量を考慮すべきだが、新規抗てんかん薬(表8下段)は肝代謝でないものが多く、半数は調節不要である。しかし、GBP、LEVは腎障害時に減量を考慮する必要がある。また、LTG、TPM、PERは肝と腎で代謝されるので、肝障害、腎障害いずれでも注意を要する。     Ⅳ.新規抗てんかん薬の適応と副作用 適応、長所、使用した印象と注意点、副作用を表にまとめる(表9)。

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