抄録
目的
子どもは様々な経験をすることによって成長・発達していくが、重い障害のある子どもは障害があるゆえに経験の幅が制限される。しかし、重い障害があっても子どもとして“たくさん楽しい経験をさせてあげたい”という保育士の思いのもと、重症心身障害児への保育士の支援について検討したので報告する。
症例
男児A(以下、Aくん)、3歳児。診断名は脳性麻痺。医療的ケアは気管切開、入所後に喉頭気管分離術を実施。入所当初は傾眠傾向で痰の吸引が頻回に必要であり、手への刺激や周囲の物音に過敏に反応し、体全体に筋緊張が見られていた。また、母の声にはより明確に反応する様子が見られた。
経過
入所時より保育開始。体調に配慮しながら日中は居室やベットサイドで手遊びや絵本などの個別保育を実施し、合わせて季節を感じられるような行事や日中活動に参加した。体調が安定してきたところで、多職種でカンファレンスを設け、児の発達状態をアセスメントし、人との関係の中で安心できる経験をすること、発達や年齢に考慮した楽しい経験をすることを大切に支援を進めてきた。スライムや砂遊びなどの感触遊びを通して少しずつ自分の手で触っていることを目で見て確かめるような姿や他の子どもの声の方向を見て、お友達に気付くような姿が見られた。
考察
10か月のAくんの成長発達として、保育士が子どもの思いを汲み取り共感的に丁寧にかかわることによって母親以外との対人関係が広がり、児の中に安心できる大人の存在が育ったと考える。そして、その関係を支えに大人と一緒に様々な経験を積み重ねることで『楽しい』『嬉しい』などの気持ちが芽生え、周囲への関心が芽生えたと思われた。今後は多職種による少人数のグループ保育を実施していく予定である。
申告すべきCOIはない。