日本医真菌学会総会プログラム・抄録集
Print ISSN : 0916-4804
第49回 日本医真菌学会総会
セッションID: WS-4
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外科,救急・集中治療領域における真菌感染症の現状と対策
消化器外科における抗真菌薬投与例の検討
*有馬 陽一炭山 嘉伸
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抄録

術後真菌感染症の診断は困難であることから、従来より、危険因子、抗細菌薬に不応の発熱、β-D グルカンなどの血清学的診断、これらに監視培養の結果を加えた抗真菌薬の適応規準が用いられてきた。教室では、2000 年からこの適応で、FLCZ や MCFG の early presumptive therapy を行ってきた。今回、真菌感染症を疑い、抗真菌薬を投与した術後感染症例を検討し、あらためて、抗真菌薬の適応を検討した。
対象・方法:2000 年 1 月から 2004 年 12 月までの教室消化器手術の術後感染発症例 278 例のうち、抗真菌薬を投与された、52 例を対象とした。これらにつき、リスクファクター、術後感染部位、投与までの抗細菌薬の投与期間と薬剤の種類、抗真菌薬投与の理由・投与期間・薬剤、最終病原菌、最終診断を検討した。
結果:抗真菌薬投与開始時に疑われた感染部位では、カテーテル感染 11 例、腹腔内感染 41 例(うち縫合不全は 35 例、膵液瘻 6 例)であった。抗真菌薬投与までの抗細菌薬の投与は、平均 2.3 薬剤、11.7 ± 4.1 日。抗真菌薬投与の理由では、ハイリスク因子は「術後症例」、「血管カテーテル留置」、「抗細菌薬不応の 38℃ 以上の発熱」、β-D グルカン(ファンギテック G)の高値(平均 20.2 pg/ml)、「監視培養で真菌陽性」であった。最終診断は、カテーテル感染を疑われた 11 例中、カテーテル感染 5 例(真菌 0 例、CNS 4 例、MSSA 1 例)、腹腔内膿瘍が疑われた 41 例では、40 例が腹腔内膿瘍で、その原因微生物は P. aeruginosa 11株、MRSA 3株、E. cloacae 7株、B. fragilis 11株、Enterococcus spp. 18株、Serratia 4株、Candida albicans 1株)であった。腹腔内膿瘍が否定された 1 例は MRSA による椎間板炎であった。全体を通して最終的に真菌が関与したのは腹腔内膿瘍の 1 例のみであった。
結論:消化器外科の術後感染症では、カテーテル感染を除くと、真菌感染は極めて希であった。カテーテル感染を除く消化器術後感染で、抗細菌薬不応の発熱は、最終的には縫合不全とそれに伴う腹腔内膿瘍、および膵液漏であり、繰り返し吻合部の状態を検討すべきである。ただし、抗真菌薬による副作用や原疾患に対する治療上の不利益はなかった。よって、真菌感染の診断が難しく、決定的な手法が確立されていない現在では、ある程度の early presumptive therapy は許容できると考えられた。

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© 2005 日本医真菌学会
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