日本医真菌学会総会プログラム・抄録集
Print ISSN : 0916-4804
第49回 日本医真菌学会総会
セッションID: SI-1
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難治性の深在性真菌症に対する最近のアプローチ—糸状菌感染を中心に
深在性真菌症の一般的な診断と治療 1.血清診断の進歩
*吉田 耕一郎
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抄録

深在性真菌症の予後は発症早期から適切な治療が施行できるか否かに左右されるので、早期診断が治療成功のキーポイントとなる。他の感染症と同様に本症の診断も原因真菌を感染巣から無菌的に分離・同定することで確定する。しかし深在性真菌症では宿主の全身状態が不良な場合や出血傾向のある症例が多く、侵襲的検査を積極的に施行できないことも少なくない。そこで早期診断の観点から、本邦の臨床現場では真菌症血清補助診断法が重視されてきた。欧米では高リスク患者における監視培養の重要性が強調されており、血清診断法を重く用いる傾向はわが国の特徴である。現在、わが国で開発された (1→3)-β-D-グルカン測定法を始め、カンジダマンナン抗原、D-アラビニトール、アスペルギルスガラクトマンナン抗原、クリプトコックスグルクロノキシロマンナン抗原などの各測定法を臨床現場で応用可能で各々に評価を受けている。測定方法の改善により同じ物質の測定系においてもその有用性は向上してきているが、いずれの血清診断法も臨床的に十分に満足できる成績の得られないのが現状であり、その運用状況も施設または主治医によって様々である。 中でも (1→3)-β-D-グルカン (β-グルカン) 測定法には複数の異なる測定キットがあり、基準値も 20 pg/mL と 11 pg/mL の 2 通りに分けられる。キットによっては非特異反応を生じ偽陽性が多く認められる結果、特異度の低いものや、逆に感度の劣るものがあり、臨床上の混乱の元になっていた。私たちの施設ではこの β-グルカン測定における非特異反応出現の問題に着目し検討を重ねてきた。その結果、アルカリ処理法で検体の前処理を行うキットでは高頻度に非特異反応が出現することが明らかになった。そこで長崎大学および生化学工業 (株) と協力してさらに検討を行った。その結果、現行アルカリ前処理液の組成を改良することで、非特異反応を生じにくい新しいアルカリ前処理液の開発に成功した。現時点ではこの前処理液はコマーシャルラインには乗っていないが、本学会開催時には現行前処理液から変更されているものと思われる。また、β-グルカン測定は米国 FDA の承認が得られ、ファンギテルの商品名で米国での臨床応用が始まっている。現時点では良好な成績が発表されているが、わが国のいずれの方法とも異なるもので、基準値も異なる数値が設定されているため、本邦への早期導入は混乱のもとにならぬよう慎重であるべきと考えている。この他、研究室レベルでは新しい真菌抗原の検出法も開発されつつあるようで、今後の成果に期待したい。 本シンポジウムでは β-グルカン測定を中心に真菌症血清診断法の進歩してきた過程と今後の方向性について述べてみたい。

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© 2005 日本医真菌学会
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