【目的】ヒト病原性黒色真菌Phialophora verrucosa及びP. americanaは形態学的に酷似するが,異種説も根強い。本研究は両菌種の分類及び株識別指標の確立を目的とした。【材料・方法】自然界及び患者より分離されたP. verrucosa 5株,P. americana 7株を供試菌とした。PCRでIGS領域を増幅後,その塩基配列をprimer walking法により解析した。【結果・考察】両菌種のIGS領域の塩基配列が本研究で初めて明らかにされた。塩基数は約2.5-2.9kbと菌株で違いが認められた。UPGMA法で作成した系統樹は同一クラスター内に両菌種が混在する結果を与えた。塩基配列の検討から,両菌種のIGS配列に共通する2つの特徴的なリピート構造(hexanucleotideのAGT-nt及びvariable internal repeat[VIR]region)の存在を明らかにした。AGT-ntは各菌株で11-23個が検出された。VIRは4種のエレメントE1, E2, E3, E4 (63 bp, 50-52 bp, 21 bp, 94-96 bp)から構成され,更にそれらの構成・配列によりVIR I, VIR II, VIR IIIの3種に類別された。VIRは株識別の有用な指標となる事が示唆され,疫学研究等への貢献が期待できた。系統解析及びIGS VIRの結果は両菌種の同種説を支持する新たな知見と考えられた。