日和見真菌であるPneumocystis (Pc)・jirovecii (旧名P. carinii f. sp. hominis)は、生体内においてI型肺胞上皮細胞に接着して寄生し、HIV感染症・自己免疫疾患・造血幹細胞移植後-臓器移植後といった免疫不全を背景とする症例においては重篤な間質性肺炎を誘導することにより、時に死に至らせる微生物である。それ故、免疫不全症例ではPc肺炎の早期診断・早期治療が非常に重要である。 このPc肺炎に対する標準的な治療薬として、ST(サルファメソキサゾールとトリメトプリム)合剤を第1選択として、ペンタミジンやアトバコンなどが第2選択として選択される。Pcに対する各種薬物の標的は、(1)サルファメソキサゾール⇒dihydropteroate synthase (DHPS)、(2)トリメトプリム⇒dihydrofolate reductase、(3)アトバコン⇒cytochrome bであり、その薬物耐性機序として各種標的をコードする遺伝子変異が言われている。特に、DHPSの活性中心であるアミノ酸の変異とPc肺炎の予防失敗・治療不成功・死亡率との関連性が報告される一方で、同変異と予後との関連性を否定する報告も見られる。Pcは培養困難な微生物であるが、その点で遺伝子型のみならず表現型による薬物感受性の評価が必要であろう。本シンポジウムでは、他施設からの報告結果も踏まえて薬物標的酵素の変異とPc肺炎への治療成績に関する自験データを提示すると共に、今後の展開としてPc表現型解析の試みも紹介してみたい。