多文化関係学
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鯨祭祀のありかたからみえる地域社会の鯨観 : 豊後水道海域と和歌山県太地町の鯨祭祀を比較して
宮脇 和人
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2009 年 6 巻 p. 21-36

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抄録

本研究の目的は非捕鯨地である豊後水道海域と捕鯨地である和歌山県太地町の鯨祭祀を比較することによって、祭祀にかかわった人びとの鯨観を明らかにすることにある。伝統的捕鯨地である太地町の鯨祭祀をみると、鯨は人間と等価に供養されているが、資源とみなされているため供養は一括して行われる。また太地町の供養の歴史と現状をみると、鯨祭祀の基本パターンが導き出せる。鯨祭祀の基本パターンは、鯨が来訪した際には反対給付として供養を施すありかたを核とし、鯨をもたらした要因や鯨がもたらすものに配慮し供養する動機がみられる。また、非捕鯨地の豊後水道海域の鯨祭祀の動機も、この基本パターンのうちにある。これらの動機の表現型として鯨祭祀をとらえると、豊後水道海域の鯨祭祀は、多様である点が特徴である。太地町では鯨が人間と等価とみなされている。豊後水道海域では、やはり人間と等価に表象されているが、ある事例では鯨に法要・戒名・位牌・過去帳を与えている例さえあり、鯨の扱いに差異が認められる。豊後水道海域においては、鯨の来訪は非日常的であり、それゆえ地域社会にとって鯨は個的な体験として捉えられている。つまり、当該海域では、鯨に特有の性格が付与され異なった祭祀を施されていると考えられる。

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