日本栄養・食糧学会誌
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総説
病態モデルによる食品因子の作用に関する栄養学的・食理学的研究
(平成19年度日本栄養・食糧学会賞受賞)
矢ヶ崎 一三
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2008 年 62 巻 2 号 p. 61-74

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抄録

糸球体腎炎と肝がん (AH109A) に付随して発生する続発性脂質異常症モデルラットを用いてその脂質代謝異常に対する栄養素, 非栄養素の作用と機構について解析を行った。がんモデルについては, 無限増殖性と転移性というがん細胞の有する二大生物学的特性を細胞培養系で再現する系を構築し, がんの顕在化を防ぎ二次予防に有用な食品成分の探索と作用機構の解析を行った。糸球体腎炎モデルラットにアミノ酸補足低タンパク質食たとえば低 (8.5%) カゼイン食 (8.5C) に少量のメチオニンとスレオニンを添加したアミノ酸補足食 (8.5CMT) を摂取させると, 著しいタンパク質栄養障害を伴うことなく, 脂質異常症はもちろんタンパク尿症, ときに低アルブミン血症を軽減化することを見出した。腎炎時には, 細胞間基質を蓄積させ糸球体硬化の原因となるTGF-βが腎で過剰発現し, 一方, 赤血球産生を促進するエリスロポエチン (EPO) の産生能は低下した。8.5 CMT食はTGF-βの過剰発現を抑制し, 血清EPO濃度を高めることが明らかとなった。低 (8.5%) 分離大豆タンパク質の場合も少量のメチオニンを補足するのみで, 成長遅延が是正されるとともに糸球体腎炎時の諸症状が軽減化されアミノ酸の栄養学的重要性が明らかとなった。また, 魚油や一部のポリフェノールも糸球体腎炎時の脂質異常症を改善しうることを見出した。肝がん移植ラットでは固形がんの形成とともに, 血清リポタンパク質像に異常が生じ, 高コレステロール血症と高トリグリセリド血症が発生する。このがん性脂質異常症の発症機構を解明するとともに, アミノ酸, システイン誘導体, 魚油などの有効性とその作用機構を解明した。培養肝がん細胞の増殖と浸潤 (がん転移の重要かつ特徴的段階) を抑制する食品成分の探索を行った。いくつかの成分については個体レベルでの効果も検証した。肝がん細胞の増殖抑制はアポトーシス誘導と細胞周期アレストによるもののほか, 固形がん内マクロファージのTNF産生を賦活化してがんを壊死させるものを見出した。浸潤抑制食品成分としてはレスベラトロール, テアニンなどを見出した。レスベラトロールはその抗酸化機能により活性酸素種 (ROS) を補足し, 細胞運動因子としても作動する肝細胞成長因子の発現を低下させ, その結果, 肝がん細胞浸潤を抑制することを明らかにした。一方, プロスタグランジン (PG) とくにPGE2は肝がん細胞浸潤亢進作用を示すことが明らかとなったので, レスベラトロールの別の浸潤抑制機構としてPG合成阻害作用も考えられた。緑茶中の旨味アミノ酸であるテアニンは, グルタミン酸受容体を介して浸潤抑制作用を発揮するものと考えられた。これらの知見から, ある種の食事処方や食品因子は疾病によっては予防的に作用するばかりではなく, 軽症化や治療的にも作用することが示唆された。

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