栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
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松茸に関する生化学的研究 (第3報)
良質茸当不良化 (腐敗) に伴う窒素成分当変動
井上 伊造
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1962 年 14 巻 5 号 p. 404-410

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抄録
自生する良質松茸蕾のpHは6.1の弱酸性であるが, 腐敗の初期に5.7の最低となり, 腐敗が進むと逆に増加をたどリアルカリ性となる。すでに酸性側にある松茸の自家消化は, 他の場合より促進されやすい状態にありこれが進むにつれて遊離アミノ酸は増加する。松茸が自家消化するとき, 酸性アミノ酸の増加やKendallらのいうProteinsparing effectがおこって, 含有する糖質の分解により有機酸が生成したと考えられ, pHは低下をたどり, 環境は酸性側に傾き, それにつれて存在している細菌は増殖しつつ種々の脱炭酸能を獲得したものと思われる。脱炭酸酵素は, 細菌の増殖時に培地がpH5.0~6.0にあると活性となり, アミンの形成能ははなはだ強くなるといわれており, アミノ酸に相当する各種アミン類の生成や, オキシ酸, アンモニアの生成によりアルカリ性になると考えられる。
一般にアルカリ性の培地では, 細菌による分解が旺盛で, 腐敗は進行しやすく, アミノ基脱離はpH7.5~8.5において最も旺盛であるといわれている。このことよリアミノ基脱離とカルボキシル基脱離は時間を異にしておこると考えられるので, 松茸の腐敗において, 初期の段階で, アミノ基脱離は考えられない。松茸を食品として利用するとき, 極度に腐敗したものは食用としないことより, 松茸中毒が腐敗の初期段階においておこると思われるので, アミノ基脱離の結果できた産物による松茸中毒は考えられない。またKendallによると, 糖質が存在するときは蛋白質やアミノ酸などの窒素化合物の分解は抑制されるといわれており, 極度の腐敗による蛋白質やアミノ酸の分解産物による中毒も公算は少ない。
松茸中毒が腐敗の第1段階といえる初期におこることは, 恐らく自家消化により, すでに存在する遊離アミノ酸の脱炭酸でアミンの生成がおこるためであろう。
本実験は内地留学として, 滋賀大学学芸学部に派遣され研究したもので, 御指導を賜わり, また御校閲下さった理学博士堀太郎教授に深謝します。
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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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