栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
ISSN-L : 0021-5376
強化鉄剤の種類が離乳食の変質におよぼす影響について
原田 基夫関谷 登喜子小林 郁子
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1969 年 22 巻 4 号 p. 218-222

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抄録

鉄を強化したモデル離乳食において, 鉄剤の種類が基質の酸敗にいかに影響するかを検討した。TBA試験の結果は532mμにピークを示すマロンアルデヒドーTBA色素のほかに, 454mμ。にピークをもつ物質が生成した。この物質は飽和アルデヒド類-TBA色素の示す吸収と一致した。したがって試料の酸敗の程度をこの両波長で測定した。また試料は殺菌区と非殺菌区に分けて比較し後者は微生物の影響がみられた。鉄剤を添加した試料は無添加試料と比較して, いずれも高い吸光度を示し, 試料の酸敗を促進することが明らかである。鉄剤の種類による影響では, 水不溶性あるいは難溶性のクエン酸第二鉄, ピロリン酸第二鉄およびピロリン酸鉄ナトリウムの三者が最も変化が少なく, 鉄強化の目的に適しているものと思われた。水溶性でかつイオンを形成する塩化第二鉄, 硫酸第一鉄の示す吸光度はかなり高い。これは鉄イオンの活性による脂質の酸化と思われる。鉄イオンを封鎖した有機錯体の吸光度は, 鉄イオンの示すそれらよりさらに高い。これらはクエン酸第二鉄を除き, いずれも溶解度が大きいから, 錯体が直接試料と反応したものと思われる。しかしクエン酸鉄アンモニウムは, 溶解度が大きいにもかかわらず変化はそれほど大きくないから, 溶解度のみで酸敗を説明できない。乳酸鉄, グルコン酸第一鉄, コハク酸クエン酸鉄ナトリウムはとくに吸光度が高い。しかもこれらはいずれも第一鉄塩で化学的に不安定である。したがって空気や光線に不安定な鉄剤は, 試料の酸敗を大きく促進し, 強化の目的に対し不適当であると思われた。またこれらの不安定な鉄剤は, 454mμの吸収が異状に高く, 飽和アルデヒド類の生成がより多いことを示し, また試料中の脂質を構成する脂肪酸と密接な関係を有することが推定された。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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