栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
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醤油の香り立ち (トップノート) を構成する成分
吉田 まさ代栗原 恵美子山西 貞
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1980 年 33 巻 1 号 p. 39-40

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抄録

実験材料には, 本醸造特選濃口醤油の瓶詰後1ヵ月以内のものを用い, Fig. 1に示す装置を用い, 室温で発散する香気成分を冷捕集した。すなわち, 毎回1lの醤油をフラスコ中に入れ, サーキュラーポンプで20ml/minの流速で系内の気体を循環させ, 約90分経過後, フラスコ内の醤油を新しくとりかえ, これを繰りかえし, 総量10lを用い, 5.4gの無色透明の凝縮液が得られた。この凝縮液 (香気濃縮液と称す) は, すぐれた本醸造濃口醤油の香りが強く, 空気中に発散したとき, 材料醤油の瓶をあけたときとまったく同様の香りとなった。
この香気濃縮液をそのままGC-MS分析した結果は, Fig. 2に示すとおり, エタノールが大部分を占めており, 分析を困難にするので, エタノールをできるだけ除くため, これをイソペンタン抽出し, 抽出液を28~32℃で常圧蒸留と, イソペンタンを留去した後, 再びGC-MS分析を行なった。Fig. 3は2種のカラムを用いて行なった分析結果である。Fig. 2およびFig. 3における各ピークの物質は, MSの解析により推定された物質の標準物と比較し, MSおよびガスクロマトグラフィーの保持時間tRがそれらと一致することにより決定した。
1, 1-Diethoxy-3-methylbutaneは, 横塚がすでに醤油醪様の主香気成分として報告しているが, 1, 1-di-Fig. 4. Mass spectra of peak f (1, 1-diethoxy-2-methylpropane) and peak g (1, 1-diethoxy-3-methylbutane). ethoxy-2-methylpropaneは今回新たに同定されたもので, やはり醤油醪様のやや果物様香りをともなった佳香である。これら2物質は, 常法により合成し, そのMSおよびtRはそれぞれピークfおよびgとまったく一致した。Fig. 4にこれらのMSを示す。
以上の結果を総合すると, 本醸造濃口醤油の 「香り立ち」に寄与する物質として, エタノール, 酢酸エチル, イソブチルアルデヒド, イソバレルアルデヒド, これら2種のアルデヒドのジエチルアセタール, イソアミルアルコールおよびごく少量のジメチルスルフィドなどがあげられる。なお微量のため同定できなかつた数種の物質の中に, 半アセタール類の存在も推定された。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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