栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
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中国緑茶の香気の特徴
小菅 充子相坂 浩子
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1980 年 33 巻 2 号 p. 101-104

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抄録

得られた精油量は, 用いた試料100gにつき“碧螺春”2.6mg, “黄山毛峰”2.0mgで, これらはいずれも“やぶきた”の3.8mgにくらべて低い収量であった。カラムSP-1000を用いた中国および日本緑茶のガスクロマトグラムをFig. 1に示し, 各成分のピーク面積パーセントをTable 1に示した。また, カラムSE 30を用いたガスクロマトグラムの主要ピーク面積パーセントの比較をFig. 2に示した。
“碧螺春”は非常に若い一芽一葉を摘採した高級茶で糸屑のように細長く不規則によれていて, 軽く, 甘味をおびた青くさい匂いのC5アルコール類, すなわち1-ペンテン-3-オール, シス-2-ペンテン-1-オール, ペンタノールの割合が非常に多く, この三者のピーク面積パーセントの合計は40%にも達するという著しい特徴を示した。反面, 日本緑茶“やぶきた”に多い甘く花様の良い香りのするリナロール, リナロールオキシド, ネロリドールや全体の香りを重厚にするといわれるインドールの割合は非常に少ない。
“黄山毛峰”はほとんどが一芽二葉を摘採した白毛のある高級茶であるが, ばら花様の香りのするゲラニオールの含量がきわだって多いことが特徴で, また, 甘く蜂蜜様の香りのする2-フェニルエタノールおよびベンジルアルコールの含量も多い。しかしリナロール, ネロリドール, インドールの割合は“碧螺春”同様“やぶきた”より少ない。
官能検査の結果, “碧螺春”の香気は清高で軽く, 味は日本煎茶様であり, “黄山毛峰”は花様の甘い香りを持ち, まろやかな味であるとされたが, 香気成分の分析結果は, これらの官能特性とよく一致すると思われる。緑茶は製造工程の初期に茶葉に高熱を加えて茶葉中の酵素の効力を失わせ, 茶の緑色を保たせる殺青という工程を経る。殺青には鍋炒と蒸気による方法があり, 日本では蒸気法を用いているが, 中国では鍋炒が中心である。この殺青法の違いも中国緑茶の香気の特徴の一因となるのではないかとも考えられる。
また, 2種の中国緑茶の香気成分の割合の違いは, 茶樹が異なることのほかに, “碧螺春”は新芽が出はじめたごく初期に, 微細な芽芽 (およそ1g当たりの芽葉数358) を摘採したものであるのに対し, “黄山毛峰”はこれよりかなり遅れた, 芽も葉も大きく成長した (およそ1g当たりの芽葉数77) 時点で摘採したものであるので“碧螺春”は低沸点の青くさい匂いのする物質を多く含み, “黄山毛峰”はこれより沸点の高い甘い香りのする物質を多く含むことは, この摘採時期も大きく影響を与えていることが推察される。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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