栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
ISSN-L : 0021-5376
う蝕誘発性菌Streptococcus mutansによる低う蝕性甘味料, glycosylsucroseの代謝
北條 祥子
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1982 年 35 巻 3 号 p. 189-196

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抄録

Glucosylsucrase (G2F), maltosylsucrose (G3F) 等の混合物であるcoupling sugarは虫歯を誘発しにくい代用糖 (低う蝕性甘味料) として期待されている。代表的なう蝕誘発菌であるStreptococcus mutansはG2F, G3Fを代謝しにくく, これらの糖からほとんど酸生成をしない。
本研究ではS. mutansが長期間G2F, G3Fと接触することによりこれらの糖質への適応現象が生ずるか否かを検討し, S. mutansのこれらの糖質の代謝機構を調べた。
1)S. mutrans strain GS 5はcoupling sugar含有培地中で長時間連続培養 (200時間) およびG2F, G3F含有培地中で長時間 (72~100時間) 静置培養すると増殖した。しかし, 菌の収量はglucose培養菌の約1/2であった。
2) 適応菌ではG2Fの代謝能が上昇し, G2Fからglucoseやsucroseとほぼ同程度の速度で酸生成した。
3) 適応菌ではG2Fの膜透過系であるphosphoenol-pyruvate依存性のphosphotransferase systemの誘導がみられた。
4) 可溶性, 顆粒性および菌体外酵素画分における糖質水解活性を調べた。適応菌では可溶性画分のmaltaseの誘導がみられた。しかし, いずれの画分においてもsucrose, G2FおよびG3F水解活性の上昇および粘着性グルカン合成酵素であるglucosyltransferase活性の上昇は認あられなかった。
5) この菌のinvertaseはPi依存性であるがG2F, G3Fの水解はPiに依存しなかった。G2Fの水解後にはfructoseがglucoseの約3~6倍多く遊離し, maltoseの生成がみられた。
以上の結果よりS. mutansは長期間coupling sugarおよびG2F, G3Fと接触するとこれらの糖質に適応してこれらの糖質の代謝能が上昇するが, これは糖質のとり込み系であるPTSが誘導されるとともに, 糖質の水解酵素であるmaltase等が誘導され, これらの糖質を利用し易くなったためと考えられる。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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