日本栄養・食糧学会誌
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完全静脈栄養法によるラットの栄養素過剰負荷症状
岡本 博夫菊地 武夫大堀 昭子橋 高志島津 肇
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1983 年 36 巻 2 号 p. 97-104

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抄録

正常ラットおよび1週間絶食した飢餓ラットに, 投与カロリー量の異なる3種の栄養輸液を13.5ml/kg/hrの速度で48時間投与し, 出現する栄養素過剰負荷症状について検討した。投与栄養輸液のグルコース濃度は, I群: 5.0%, II群: 14.8%, III群: 20.6%で, その他の成分である電解質, アミノ酸, ビタミン, 微量元素は各群とも同量含んでいる。
正常ラットにおいて, I群では体重減少が著しく, ラットは異化の亢進が著明であった。II群では栄養素の過剰負荷を疑わせる症状はなく投与された栄養素が有効に利用された。一方, III群ではII群に比べて体重減少は少ないものの肝重量の増加を起こしており, 血液化学値, 相対臓器重量あるいは肝組織検査像も栄養素過剰負荷を示唆していた。
次に飢餓ラットにおいては, I群では体重の著変もなく, とくに栄養素の過剰負荷症状は認められなかった。ところがII, III群では体重の著明な増加, Na, Kの貯留, 高血糖, 尿糖, 肝重量の著増, 肝GLCおよびTGの蓄積, 肝細胞の腫脹と空胞化などを呈し, 栄養素過剰負荷症状の発現が推定された。その程度はIII群で顕著であり, 死亡例も散見された。
以上より, TPN開始液としてはIII群のものより, グルコース濃度の低いII群のもののほうが安全に使用しうることが明らかとなった。しかし, 手術侵襲直後や栄養状態が著明に低下しているなどの糖利用障害がある例では, II群に用いたグルコース濃度でも, 輸液投与速度が適切でない場合には, 栄養素過剰負荷症状を呈する可能性が考えられるので, 生体の代謝能力に見あった栄養管理が必要と思われる。

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