日本栄養・食糧学会誌
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ラットにおける乳糖不耐症の遺伝要因の検討
西川 公巳片岡 啓宮本 拓中江 利孝
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1988 年 41 巻 3 号 p. 175-183

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抄録

本実験では, wistar系ラットを用いて, 乳糖分解吸収能の年齢的消長をLTTで調べ, さらに, この系統におけるLTT時の血糖上昇量, ラクターゼ活性の遺伝率を推定し, これらを指標として乳糖不耐症における遺伝要因について検討した。
また, 各選抜群における他の二糖類分解酵素活性, 乳糖負荷後の臨床症状としてふん中水分量, ふん中の還元糖の有無について検討を加えた。得られた結果は以下の通りである。
1) LTT時における血糖上昇量は, 5週齢から6週齢以降急激に低下することが認められ, 低下の程度, 低下しはじめる時期に個体差の大きいことが認められた。
2) 11週齢時のLTTにおける血糖上昇量によって40mg/dl以上をH群, 29mg/dl以下をL群および30~39mg/dlをM群とした。
このような3群に分けた場合のLTT時の血糖上昇量の週齢に伴う推移は, L群では5週齢から6週齢以降急激に低下するのに対し, H群では, 低下の程度は少なくほぼ6週齢時の値を維持し, M群は, 両群の中間の値を示すことが認められた。
3) このようなH, L群間においてラクターゼ活性に有意差が認められた (p<0.05)。また, LTT時の血糖上昇量とラクターゼ活性との間には, 有意な相関がみられた (r=0.69)。
4) LTT時の血糖上昇量とラクターゼ活性の遺伝率は, それぞれ0.736~0.799および0.403~0.624の値が推定された。
5) 選抜に伴うLTT時の血糖上昇量の推移は選抜2世代でH群が40.5, L群が16.5mg/dlを示した。ラクターゼ活性は2世代でH群が16.4, L群が11.4unit/g. proteinを示した。このように, LTT時の血糖上昇量, ラクターゼ活性ともH群は高いほうへ, L群は低いほうへ選抜されていることが示された。
6) グルコース+ガラクトース+エタノール負荷試験における血中ガラクトースおよびダルコース値の変化は選抜各世代のLおよびH群間で差は認められなかった。
7) 0.75~2.5g/kgの各乳糖量を負荷した場合の下痢症状の発現は, 1.5g/kg以上でL群に軟便が認められ, 負荷乳糖量が多いほどL群で軟便を呈するものが増加した。各乳糖量を負荷した際の血糖値の変化では, 両群とも負荷乳糖量が増加すると負荷後の血糖値も高くなり, 最大値に達する時間が遅くなる傾向がみられた。
8) 二糖類分解酵素活性は, ラクターゼ活性において, L群がH群に比べて有意に低い値 (p<0.05) を示したのに対し, スクラーゼおよびマルターゼ活性は, L群がH群に比べて低い値を示す傾向にあった。しかし, 各群間に有意差は認められなかった。
以上のことから, slc-Wistarラットにおいて, 乳糖の分解吸収能には, 遺伝の関与の大きいことが示唆された。さらに, 乳糖負荷時の血糖上昇量およびラクターゼ活性を指標とした選抜によって, 乳糖の分解吸収能の異なった系統作出の可能性が示唆された。

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