知能と情報
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原著論文
多出力二分決定グラフの Flexible APPLY交叉を用いた生態分化モデル
武藤 敦子沢田 高政加藤 昇平伊藤 英則
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2009 年 21 巻 2 号 p. 236-246

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抄録

本論文では,生態形質の違いと生殖隔離により発生する同所的種分化モデルを提案する.多出力二分決定グラフ(n-output Binary Decision Diagram ; n-BDD)は,人工生命の行動戦略の表現に適しているが,n-BDDの交叉手法である APPLY交叉では交叉を行う2つのエージェントの変数順序を一致させる必要があったため,全個体の変数順序を事前に同一に固定しなければならなかった.変数順序は各エージェントが行動決定時に参照する知覚情報の優先順序を表す.一般的に,生命体が行動の判断基準としてどの知覚情報を優先するかは個々の生命体によって異なると我々は仮定する.個々の生命体が自らの持つ形質や環境に基づいて知覚情報の優先順位を世代交代時に進化させることができれば同所的種分化をモデル化する上で有用であると考える.よって,全てのエージェントの変数順序を一致させる必要がある従来のAPPLY交叉を改良し,変数順序の異なる n-BDDの交叉を可能とする Flexible APPLY交叉を定義した.変数順序の異なる個体が混在する簡単な問題を用いてFlexible APPLY交叉の有効性を評価したところ,問題に適した変数順序が動的に再構築されることで,早く最適解を得ることを確認した.さらに,FlexibleAPPLY交叉を用いることで,疑似生命体における変数順序の異なる2エージェントの交配が可能となり,疑似生命体が世代交代を通して環境に順応し生態形質に見合った行動戦略を獲得することで同所的種分化が発生した.

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© 2009 日本知能情報ファジィ学会
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