知能と情報
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原著論文
文章入力速度向上を目的としたP300 spellerに対する入力文字予測システムの実装とその検討
継岡 恭子高橋 弘武吉川 大弘古橋 武
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2012 年 24 巻 1 号 p. 553-559

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抄録

Brain-Computer Interface(BCI)とは,脳信号を解析して思考判別を行い,その情報を元に脳からの指令をコンピュータに伝えることで外部機器を制御するシステムである.BCIを用いることで,筋萎縮性側索硬化症患者などの重度障害者が,思考するだけで車椅子制御や他者との意思疎通を行うことが出来るようになり,また,健常者に対しても,アミューズメント用としての応用が期待されている.脳活動の計測には,計測機器が非侵襲・安価であるため最も現実的な脳波(Electroencephalogram:EEG)がBCIに多く用いられている.Farwellらが開発したP300 spellerは,脳波から得られる事象関連電位の一種であるP300を特徴量として用い,ユーザが選択した文字を判別・入力するBCIの一つである.このP300 spellerでは,インターフェイスのマトリクス上に文字や記号が配置されており,ランダムに1行または1列ずつ点灯と消灯が繰り返される.その際,ユーザが選択した文字を含む行または列の点灯により誘発されるP300を用いて文字判別を行うが,P300はSN比が悪く,一般に加算平均を行うことで判別精度を向上させている.その結果一文字入力あたり数十秒を必要とし,長文を入力する場合でのユーザの疲労が懸念される.一方,携帯電話などに用いられている入力文字予測は,少ないキー操作で文字入力を可能にする機能であり,これをP300 spellerに適用することで入力速度の向上が期待できる.本論文において,P300 spellerに文字入力の予測変換システムを実装し,日本語文章入力における入力速度の向上性能について検討を行ったところ,シミュレーションでの実験では判別率100%で41%,判別率80%で48%文字判別回数を削減することができた.また,実際の脳波を用いた実験では,被験者全体の平均で21%,最大で33%文章入力における所要時間を削減することができ,これによりシステムの有用性が確認できた.

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© 2012 日本知能情報ファジィ学会
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