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生体工学(Bionics)
西尾 公裕
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2014 年 26 巻 2 号 p. 68

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抄録

「生体工学」とは,生体の有する機能や構造などを解析して,それを人工的に利用して新たなシステムを構築する学問である.生体に学ぶという点から「生体模倣技術」といった言葉も同様に用いられており,最近では生体模倣ロボットや生体模倣センサなどの研究分野もある.ここでは,生体の優れた機能に学んで新たな集積回路(ハードウェア)・センサを構築する研究分野について紹介する.

現在のコンピュータの処理速度は非常に早く,生体機能を十分に超える能力を備えつつある.そのため,多くの工学システムを実現するとき,コンピュータが用いられる.今後は,人が行うような柔軟な処理,措置や判断などの機能を備えたシステムが必要になると考えられている.しかしながら,コンピュータを用いたシステムでは,情報を直列演算により処理するため,高速で柔軟な処理を行うシステムの実現は難しいと考えられている.生体の脳では,個々の神経細胞が超並列に情報を処理するため,瞬時に必要な措置をとることができる.そのため,生体の神経細胞が持つ超並列処理機能に学ぶことにより,コンピュータの時系列の処理では難しいとされている高速で柔軟な処理を可能にする.

1980年代後半から,多くの研究者らは,生体に学んで視覚機能を有する集積回路・センサを提案してきた.その中で,網膜に基づくエッジ検出回路や動き情報の生成回路,昆虫の視覚システムに学んだ動き(方向・速度)検出回路などが提案された.近年,集積回路の微細化に伴い,高解像度・低消費電力な集積回路・センサも多く提案されてきている.さらに,聴覚機能や嗅覚機能に学んだセンサなど,生体に基づく多機能のセンサも提案されている.生体の情報処理に基づく集積回路は,将来的に,ロボット用センサ,防犯システム,監視システム,移動体の衝突防止システムなどへの応用が期待され,我々人の生活にとって極めて役に立つと考えられる.

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© 2014 日本知能情報ファジィ学会
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