知能と情報
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同期発火現象(Synchronous firing)
井岡 惠理
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2014 年 26 巻 3 号 p. 113

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抄録

ニューロン(神経細胞)は連続的な刺激の印加によって短い時間幅のスパイクを発生させる.この現象は発火と呼ばれ,脳内の情報処理において重要な役割を担うことは近年の脳科学における基本的な認識となっている.この発火による情報のコーディング方法としては,ニューロンの発火頻度,集団(グループ)の発火活動によるコーディング,短い時間間隔での発火パターンによる符号化などが考えられている.一方で複数のニューロンが同時(あるいはある一定の間隔を保って)に発火するなどニューロン同士が見せる発火のタイミングの関係性が重要であるとも考えられている.このような発火現象は同期発火(Synchronous firing)と呼ばれている.

同期発火はとくに結びつけ問題(Binding problem)と非常に深い関わりがあると考えられている.結びつけ問題とは脳科学における未解決問題の一つである.通常,視覚や聴覚などの感覚器が受ける情報は脳に伝わると形や色,運動方向やその速度などの細かな情報に分割されそれぞれについて処理される.そしてこれらを再統合するのだが,細分化された情報をどのようにして統合しているのかというメカニズムの詳細は解明されていない.

もしもニューロンの発火にのみ情報がコードされていると考えると複数の入力情報を再統合する際に,元の入力情報とは異なる情報が再現され結果として脳はあるはずがないまぼろしを見ることとなる.同期発火によるニューロン同士の関連性を持った発火現象は分割された情報と情報との関連を持たせる役割があると考えられている.実際に生理学実験においてもこの同期発火現象は視覚野や嗅覚野で観測されている.

さらに,同期発火はパーキンソン病などの神経性の病症との関連も示唆されている.したがって同期発火現象のメカニズムに関する関心は今後も高まると考えられる.

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© 2014 日本知能情報ファジィ学会
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