日本口腔インプラント学会誌
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原著
水晶発振子マイクロバランスによる細胞接着タンパク質のチタンへの吸着の解析
古屋 延明和田 猛小澤 大作山西 泰史早川 徹
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2012 年 25 巻 3 号 p. 461-467

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抄録

水晶発振子マイクロバランス(QCM)法は,共振している水晶発振子の振動数の減少からタンパク質の生体材料への吸着量を検出できる方法である.本研究では,27 MHz QCM を使用して,チタン表面へのタンパク質の吸着挙動を観察した.タンパク質としては,細胞接着タンパク質であるフィブロネクチンとコラーゲン,およびアルブミンについて検討した.
QCM 装置として,500 μL のセルを備えた27-MHz AFFINIX QNμ(イニシアム,東京)を使用した.温度は25±1℃ に設定し,セル中の溶液を攪拌しながら測定した.チタンセンサーは,金電極上にスパッタコーティングを施して作製した.牛アルブミン,ヒト血漿フィブロネクチンおよびアテロコラーゲンをそれぞれ50 μg/mL の濃度でリン酸緩衝液(PBS,pH 7.4)に溶解した.それぞれのタンパク質溶液を,PBS 溶液を満たしたQCM 装置付属のセル中に注入した.振動数の減少を観察し,注入30 分後のタンパク質吸着量をSauerbrey の式から算出した.さらに,見かけの反応速度定数Kobs を得た.
アルブミンを注入した時は振動数のわずかな減少がみられ,フィブロネクチン吸着時の振動数減少のほうが,アルブミン吸着時よりも大きかった.コラーゲンが統計学的に有意に最も大きな振動数の減少を示した.3 種類のタンパク質の吸着量はそれぞれ統計学的に有意差があり,コラーゲンが統計学的に最も大きな吸着量であり,アルブミンが統計学的に最も少ない吸着量を示した.また,コラーゲンのKobs は,統計学的に最も小さい値であり,アルブミンが統計学的に最も大きな値であった.小さな Kobs の値は,タンパク質のチタンへの吸着速度が早いことを意味している.
タンパク質のチタンへの吸着は静電的な相互作用が主要因であると推察される.アルブミンおよびフィブロネクチンはその等電点からチタンとの間に静電的な反発力が働いている.一方,コラーゲンとチタンの間には,コラーゲンが正に荷電しているために吸引力が増加した.以上,QCM はタンパク質の吸着量だけではなく,吸着速度も含めた吸着挙動の観察に非常に重要なツールであることが判明した.

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© 2012 公益社団法人日本口腔インプラント学会
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