日本口腔インプラント学会誌
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特集 認知症と歯科医療
歯科から考える認知症予防への貢献
山本 龍生
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2017 年 30 巻 4 号 p. 230-234

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抄録

日本では,高齢化の進展とともに認知症患者が増加しており,認知症の予防や早期発見が重要な課題となっている.近年の疫学研究などから,歯科口腔保健が認知症発症リスクに関わる可能性が明らかになってきた.要介護認定を受けていない65歳以上の4,425名を対象とし,歯数と義歯の使用状況を調査後,認知症を伴う要介護認定を4年間追跡調査した.その結果,年齢,所得や生活習慣などの影響を取り除いても,歯がほとんどなく義歯未使用の者は20歯以上の者と比較して,認知症発症リスクが1.85倍高くなった.また,歯がほとんどなくても義歯を使用している者は,20歯以上の者と比較して認知症発症リスクに有意差がみられなかったことから,歯がほとんどなくても義歯を使用することで認知症発症リスクを下げることができる可能性も示された.

歯の喪失によって咀嚼能力が低下し,咀嚼による脳の認知領域への刺激が少なくなり,認知症になる可能性がある.また,咀嚼能力低下により,噛みづらい生野菜等を避け,ビタミン等の栄養が不足することで認知症発症リスクを高める可能性もある.歯周病は歯の喪失原因であるとともに長期の慢性炎症である.歯周組織の炎症から様々な物質が血液を介して全身の臓器に影響し,脳にも影響していることが考えられる.日本人の平均歯数は70歳以上では19以下である.認知症を防いで健康寿命を延ばすためにも,歯の喪失原因である歯周病やう蝕の予防が必要である.また,不幸にして歯を失っても,義歯やインプラント等で咬合を回復することで認知症予防や健康寿命延伸に寄与する可能性がある.

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© 2017 公益社団法人日本口腔インプラント学会
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