日本口腔腫瘍学会誌
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慢性下顎骨骨髄炎を疑った顎骨中心性癌の1例
紺田 敏之小野 克己島原 政司岸本 幸彦
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1991 年 3 巻 1 号 p. 57-63

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抄録

患者は緑内障のため5年間にわたり, ステロイド剤を連日服用し, 右側下唇のしびれ感を主訴として来院した。初診時のパノラマX線診査では, 顎骨に広範な骨粗鬆症変化をきたした以外には左右差は認めず, 悪性腫瘍を思わせる骨破壊像は認めなかった。また, 全身的に初診時のスクリーニング検査でも異常は認められず, 当初はステロイド剤により誘発された非定形的な慢性下顎骨骨髄炎を疑い, 治療を開始した。しかし症状の改善がみられなかったため, 腫瘍性疾患の可能性も考慮し, 生検を施行した。病理組織学的診断の結果は扁平上皮癌であった。入院後の精査により, 肺および肝臓にも多発性の癌性病巣を認めたため, 手術非適応との判断のもと, 抗癌剤による化学療法を行なうも, 増悪の一途をたどった。歯肉粘膜には異常所見は認められなかったが, 右側下顎部の腫脹は反対側にまで波及し, さらに残存歯歯肉縁より出血を来し, 初診より7ヵ月後に死亡した。
今回の症例を経験し, ステロイド剤の服用患者で骨粗鬆症を併発し, 下顎骨中心性に発育した癌という, 複雑な条件の重なりあった症例であったことから, 診断に難渋し, かかる条件下での炎症性疾患と悪性腫瘍性疾患の鑑別診断の難しさを改めて痛感した。

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