小児歯科学雑誌
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総説
下顎骨発生におけるTGF-βの役割
岡 暁子
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2012 年 50 巻 3 号 p. 175-181

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抄録

下顎骨は,単一骨でありながら,その発生様式は下顎体部,関節・筋突起,下顎角を含む下顎枝部で異なり,出生後も複雑に制御されている。下顎骨発生への理解は,出生後の下顎骨成長発育に深く関わる小児歯科領域においても非常に重要であると考える。TGF-β シグナルは,その役割の幅広さから様々な研究分野で注目されている。我々は,神経堤細胞で特異的にTGF-β II 型受容体を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスWnt1-cre ; Tgfbr2fl/flTgfbr2 CKO)に現れた下顎骨の形成不全について解析を行った。出生時のTgfbr2 CKO マウスには,メッケル軟骨の彎曲,下顎体部および下顎枝部の形成不全がみられた。組織学的には,2 次軟骨として出現する関節突起と下顎角部での軟骨形成を欠き,骨形成が生じていた。遺伝子発現解析によって,この領域での軟骨細胞分化マーカーSox9 発現低下,骨芽細胞分化マーカーRunx2, Dlx5 発現増強が起こっていることが明らかとなった。興味深いことに,Tgfbr2 CKO マウスで発現増強がみられたDlx5 遺伝子欠損マウスとのダブルノックアウトマウスは,細胞増殖活性が改善し,下顎角部の軟骨形成が回復することがわかった。本稿では,下顎骨発生におけるTGF-β シグナルの細胞増殖・分化調節機構をTgfbr2 CKO マウスの表現型から考察したい。

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© 2012 日本小児歯科学会
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