小児歯科学雑誌
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原著
歯科診療が困難な患者における亜酸化窒素吸入鎮静法の実態調査
原野 望渡辺 幸嗣佐伯 桂牧 憲司
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2020 年 58 巻 3 号 p. 82-89

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抄録

亜酸化窒素吸入鎮静法(以下,吸入鎮静法)は,適度な鎮静効果と健忘効果,そして鎮痛効果を有することから,世界の先進国の多くの医療機関で使用されている。しかし,歯科治療が困難な患者が多い小児歯科や障害者歯科では,すべての患者に有効であるとは言えず,他の行動調整法へ変更せざるを得ない場合がある。よって本調査では,吸入鎮静法の適正選択を検討するために,患者タイプと処置内容による吸入鎮静法の選択状況を調査し,他の行動調整法と比較した。2008年4月~2017年3月の9年間において,本学附属病院あんしん科を受診した初診患者2,417人(延べ患者14,485人)を対象とし,診療録を資料として後ろ向きに調査した。結果,吸入鎮静法の選択率は経年的に増加しており,外科処置ではその47%と最も多く選択され,次いで歯内処置で44%,修復処置で38%,補綴処置で36%に選択されていたが,予防歯周処置では11%と少ない傾向にあった。また,吸入鎮静法はすべての患者タイプにおいて選択されていたが,特に幼児期の歯科恐怖症で最も多く選択され,自閉スペクトラム症,精神疾患併発患者,脳性麻痺患者と比較して有意な差が認められた。以上のことから,吸入鎮静法は患者タイプと処置内容によって適切に選択することで,行動療法や体動コントロール,そしてより確実な鎮静状態を提供する静脈内鎮静法,全身麻酔法とともに,有用に活用できる行動調整法の一つであるということが示唆された。

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© 2020 日本小児歯科学会
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