小児歯科学雑誌
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幼児期の放射線照射が口腔諸組織・器官に影響をおよぼしたと思われる一症例について
遠藤 公一坂井 正彦佐藤 田鶴子久野 吉雄
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1982 年 20 巻 1 号 p. 110-117

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抄録

今回われわれは,生後4か月目に受けた60Co-γ 線による放射線療法が,歯の形成および顔面諸組織の発育に影響をおよぼしたと思われる症例に遭遇したので報告する.患者は初診時年齢13歳7か月の女性で,生後4か月目に細網肉腫と診断され,約5500 radの60Co-γ 線照射による放射線療法を受けている.
口腔内はHellman Dental age IV Aで,残存歯は〓である.〓には形成障害が認められ,すべての歯には盲嚢を認め,〓には約2度の動揺を認めた.また上顎左側前歯部歯肉唇移行部付近には,小指頭大の硬い膨隆を触知した.
X線診査でも〓はすべて欠如していた.また,頭部X線規格写真の分析では中顔面部の高さ不足の所見を呈していた.
石膏模型分析では上下顎とも狭窄縮小された歯列弓であることを示していた.
歯の病理組織学的所見ではエナメル質の狭窄が観察され,またエナメル・象牙境から表層におよぶ明瞭な透過像が観察された.
本患者は上顎前歯部の抜歯と同時に行った膨隆部の病理組織学的検査の結果,黒色腫と診断され免疫療法を施行中であるが,経過が良好であるため蕃美性の回復を主体とした義歯を製作,装着し,経過観察中である.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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