小児歯科学雑誌
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西日本出土の弥生時代小児骨にみられた不正咬合と歯科疾患
井上 直彦伊藤 学而亀谷 哲也
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1982 年 20 巻 3 号 p. 402-410

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抄録

著者らによる従来の古人骨調査においては,乳歯齲蝕は全くみられなかった.これは,小児骨を観察する機会が少なかったこと,および,実際に乳歯齲蝕が時代によっては全くなかったか,あっても非常に稀であったことによるものであろうと思われる.
最近,後・晩期縄文時代3体,弥生時代17体,古墳時代1体,合計21体という,この種の資料としてはかなりまとまった数の小児頭蓋骨標本を観察する機会を得た.ここでは,これらについて,不正咬合と不正要因の頻度,齲蝕,とくに今回の調査ではじめて見られた乳歯齲蝕の分布,頭部X線規格写真の分析による顎顔面形態の特徴,および歯と顎骨の不調和などについて報告した.
結果として,弥生時代の小児においては,同じ時代の成人と共通して反対咬合の頻度が高く,また,骨格型の不正要因も多くみられた.乳歯齲蝕の存在が確認されたが,有病者率,齲蝕率,1人平均齲歯数などは現代人小児と比較してかなり低いものであった.顎顔面形態には,すでに混合歯咬合期の段階で直顎型の傾向が強く現われ,これが,とくに下顎骨の発達によるものであることが知られた.歯と顎骨の不調和は大きくはなかった.
これらのことから,弥生時代人が,先住民とはかなり異なる形質をもっていたこと,この時代がきわめて高い口腔内環境汚染の時代であったこと,歯と顎骨の不調和の影響はまだあまり大きくなかったこと,などが推論された.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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