1984 年 22 巻 1 号 p. 167-174
本研究は,小児歯科臨床において広く行われている,既製乳歯冠による咬合の改善が小児咀嚼筋にどの様な影響を及ぼすかについて検討することを目的として行ったものである.
被検児は乳臼歯部に崩壊の著しい齲歯を有する小児6名(4歳~5歳)を対象として,tooth tapping時(76回/分)の咀嚼筋筋活動を,左右側頭筋前腹および咬筋より表面銀電極にて導出し,また,同時に前額中央部より咬合音も導出記録した.筋電図記録は乳歯冠装着前と乳歯冠装着による咬合の改善後の二度行い,tooth tapping時における静止期の出現頻度および持続時間,潜時について筋電図学的検討を行った.
その結果,乳歯冠装着後では静止期の出現頻度は著明に増加し,潜時および持続時間の変動係数は低下する傾向がみられ,安定した潜時および持続時間の筋波形の出現が観察されるようになった.
以上の結果より,適切な乳歯冠による咬合の改善は,小児の咀嚼筋活動にも好影響を及ぼすものと推察された.