1989 年 27 巻 3 号 p. 716-724
当科を初診で来院した両側性および片側性の唇顎口蓋裂患児5 1 名( 2 - 5 歳) および定期診査中の68名(6-14歳)を対象として,その齲蝕罹患状態を調査し,健常児と比較した。
その結果,唇顎口蓋裂患児の齲蝕罹患は健常児と比較して低年齢時より高く,増齢とともにさらに高まった。また,乳歯および永久歯の齲蝕経験歯率を歯種別に検討すると,唇顎口蓋裂患児の上顎前歯は乳歯,永久歯ともに高い齲蝕罹患性を示し,裂の存在が非常に大きな影響を及ぼしていた。さらに,上顎乳前歯および永久中切歯の齲蝕罹患状態を歯面別に集計すると,顎裂の存在による歯列不正および外科的侵襲による搬痕の存在と顎裂部の骨欠損による口腔前庭の欠如といった唇顎口蓋裂患児に特有な所見のために,自浄性が低い歯面において低年齢時より高い齲蝕罹患を認めた。
これらの調査結果は,唇顎口蓋裂患児に対して口腔衛生指導を可能な限り早期から開始し,齲蝕予防処置を継続することが,同患児の歯科的管理を行う上で不可欠であることを示唆している。