抄録
咀嚼の低下が顎下腺の上皮成長因子(EGF)活性に及ぼす影響ならびにその機序について検討した.実験には離乳直後の雄マウスを用い,固形食あるいは同一成分の練食で飼育し,8週齢時のEGF活性について比較を行った.EGF活性は,ヒト乳歯歯根吸収組織由来細胞の増殖促進能を指標として計測した.その結果,顎下腺から抽出した蛋白質中のEGF活性は,練食群で有意に低い値を示した.そこで,この機序について追求する目的で,まず両群の顎下腺の構成細胞の形態を光学顕微鏡で観察し比較したところ,練食群では,EGFを産生する顆粒腺房細胞の数が少ないことが認められた.次に,顎下腺抽出物中の蛋白質の成分分析を.SDSポリアクリルアミドゲル雷気泳動を用いて行ったところ,両群間で構成蛋白質成分に差は認められなかった.
これらの結果から,咀嚼の低下は,顎下腺の発達の低下をひきおこし,EGFを産生する顆粒腺房細胞の数の低下とそれに伴うEGF含有量の低下をきたすことが示唆された.