1992 年 30 巻 4 号 p. 724-734
歯科治療時の自律神経機能の変化を知る目的で,健常児63名,健常成人5名,先天性心疾患児22名,精神発達遅滞児15名を対象として,心電図R-R間隔変動のスペクトル解析の有用性を検討した。心電図電極は浸潤麻酔時に装着し,心電図波形データレコーダに記録後,R-R間隔を最大エントロピー法によるスペクトル解析により分析した。その結果,0.04-0.1Hz(LFP)と0.2-0.4Hz(HFP)に明らかなパワースペクトルを認め,そのピークは浸潤麻酔前後で変動した。その変動型は健常児・者および先天性心疾患児では年長になるに従い,HFPが安定して認められる自律神経安定型の割合が増加したが,精神発達遅滞児では7歳以降においては自律神経安定型は認められず,低年齢の健常児,先天性心疾患児と同様に交感神経優位型の占める割合が大きかった。従って,小児のパワースペクトルは浸潤麻酔前後における変動型が,年齢,精神発達により変化していくことから,その変化は自律神経機能の成熟度を反映していると考えられた。また,同時に心電図R-R間隔のスペクトル解析は歯科治療時の自律神経機能の評価法として有用と思われた。