1994 年 32 巻 5 号 p. 1165-1172
悪習癖の一つである拇指吸引癖の存在は上顎前突あるいは開咬に代表される不正咬合の大きな原因となるばかりか,すでにそれを伴う不正咬合症例にあっては,その不正咬合の悪化,矯正治療の進行阻害の可能性が高いことから,悪習癖への対処は不正咬合の改善操作に優先されるべきものである.しかし,悪習癖は無意識下で行われるものであるだけに短期間での除去は難しく,また低年齢者においては,患者自身の潜在的成長発育能力を早期から順調に育ませる必要があることから,臨床上,習癖への対処と不正咬合の改善処置は並行して行うことが多い.
そこで今回,拇指吸引癖を伴う乳歯列期の上顎前突に,上記内容を考慮し機能的矯正装置の一つであるバイオネーターを応用した治療例を提示し,習癖ならびに上顎前突の改善に至った経過,そしてこのような症例でのバイオネーターの効果について述べた.