1995 年 33 巻 5 号 p. 882-894
1972年より92年までの20年間にわたって仙台市北地区内保育園児の歯科検診を行い,72年,77年,82年,87年,92年の5か年ごとの調査資料をもとに,各年度における2~5歳児の乳歯齲蝕の歯種歯面別罹患状況を比較,その推移を検討し,次のような所見を得た.
1)歯種歯面別df率は,前歯では上下顎歯が異なった推移を示したが,臼歯では第一,第二乳臼歯ともに上下顎で類似した推移を示した.
2)70年代にはどの年齢群においても,全ての歯種歯面の齲蝕が著しい減少を示した.しかし,80年代から90年代初めにかけては,第二乳臼歯咬合面及び近心面を除いた全歯面で緩慢な減少にとどまっているか,横ばい状態を呈していた.
3)第二乳臼歯では,咬合面齲蝕が80年代から90年代初めにかけて,2,3歳児で増加傾向を示し,近心面齲蝕が80年代に3~5歳児で増加傾向を示した.
4)70年代に認められた齲蝕減少の要因は,保育園での定期的な歯科検診の実施及び地方自治体での低年齢からの健診の導入などが動機となって,口腔衛生思想が普及したことによるものと思われる.
5)80年代に示された齲蝕増加の兆しは,保護者,保育園スタッフ及び歯科医療従事者の幼児の口腔衛生に対する関心が,70年代に比べてかなり薄らいできていることによるものと思われる.