抄録
歯の先天欠如がみられるばあい,小臼歯群および大臼歯群ではそれぞれ遠心端から歯の欠如が起こるとする(列端退化)説が広く知られている.藤田が提唱したこの説にしたがえば,小臼歯部に欠如が起こる場合,第二小臼歯単独の欠如,または,第一・第二小臼歯の両者の欠如という様式はあっても,第一小臼歯単独の欠如はないことになる.これに対し,著者らは比較的最近,この法則性と矛盾する先天欠如症例を4例経験したので報告する.歯の先天欠如の診断はパノラマエックス線写真上で行い,先行乳歯と後継永久歯胚の位置関係から欠如歯種を判定した.
[症例1]下顎左右側第一小臼歯が欠如し,同第二小臼歯は存在していた.
[症例2]下顎左側第一小臼歯が欠如し,同第二小臼歯は存在していた.
[症例3]下顎左側第一小臼歯が欠如し,同第二小臼歯は存在していた.
[症例4]上顎左右側第一小臼歯が欠如し,同第二小臼歯は存在していた.歯の先天欠如に関する列端退化説は,小臼歯部において必ずしもすべての例に適用できるわけではないことが明らかになった.このことから,小臼歯部以外の歯群の欠如様式についても再検討する価値があるのではないかと考えられた.