主催: 一般社団法人日本体育・スポーツ・健康学会
私が初めて東北タイ調査に参加した1986年頃のタイ国は発展の途上にあり、前近代と近代が入り交じり、首都バンコクと地方には明瞭な都鄙差が認められた。東北タイの純農村、地方都市、バンコク都、そして日本という近代化・都市化水準の異なる地域勾配を研究枠組みとして、子どもの発育、生活、遊び・スポーツの研究を開始した。
伝統的生活様式の残る純農村においてさえ新校舎に建て替えられ、教室にテレビやPCが導入された。学校対抗のスポーツ競技会が盛んに開催され、教育省体育局がスポーツスクールを設置し、タイ国におけるスポーツの地位が上昇した。途上国の中でいち早く経済発展を進めたタイでは、スポーツの普及と発展を急いでいるように見受けられた。その結果として、伝統菓子よりもスナック菓子を選ぶが如く、子どもたちは伝統遊びよりもスポーツを好むようになり、世代を越えて連綿と続いてきた伝統遊びを静かに消失させることになった。こうした国々に寄り添ってスポーツ開発を語るとき、「容易く伝統文化を消失させてよいのか」「世界共通となったスポーツだけに力を注ぐことでよいのか」と発信することが使命だと感じるようになっていた。