体力科学
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Breath-by-breath法による口腔と肺胞における運動時ガス交換動態の相違
古賀 俊策対馬 清造上村 崇櫻井 隆行高橋 恒雄福場 良之池上 晴夫
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1989 年 38 巻 4 号 p. 151-164

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抄録

運動時の口腔レベルと肺胞レベルにおけるbreath-by-breathガス交換動態の相違点を明らかにし, かつ肺胞レベルのガス交換推定の問題点について考察した.
呼気ガスの流速と濃度を測定する方法 (呼気流速法) によって口腔レベルのガス交換値を求めた.更に, 吸気ガスの流速と濃度を測定し, 吸気と呼気のガス量の差に肺ガス貯留量の補正を加える方法 (肺胞ガス交換推定法) によって肺胞レベルのガス交換値を推定した.成人男子5名を用いてコンピューター制御の自転車エルゴメーターによる一定強度負荷 (150, 200, 250W) , およびランプ負荷 (30W/min) の運動実験をおこなった.ガス交換動態の非線形最小二乗法による近似計算に一次指数モデルと合成指数モデルを適用した.得られた主な結果は次の通りである.
1.負荷強度および負荷形態の違いに関わらず, 呼吸毎の口腔レベルのガス交換値は肺胞レベルのガス交換値に比ベて変動が大きく, 非定常状態だけではなく定常状態においてもその傾向が認められた.その原因として呼吸毎の口腔レベルの窒素交換量と肺容量の変動の相関が高いことから, 肺容量の変動により口腔レベルの窒素平衡が成立しないことが示された.2.一定強度運動開始後の非定常状態においては, 負荷強度に関わらず肺胞レベルのVoら, 肺容量の変動により口腔レベルの窒素平衡が成立しないことが示された.の時定数は口腔レベルのVo2ら, 肺容量の変動により口腔レベルの窒素平衡が成立しないことが示された.のそれより小さかったが, Vco2については口腔レベルの時定数が, 肺胞レベルのそれよりも小さくなった.これは肺のO2貯留量とCO2貯留量の変動による口腔レベルのVo2とVco2の誤差によるものと考えられる.ランプ負荷における肺胞レベルのVo2とVco2の応答は口腔レベルのそれよりも速かった.
3.一定強度負荷における定常状態期や第3相では肺胞レベルのガス交換平均値は, 口腔レベルのそれに等しかった.この理由として, 呼吸毎の肺ガス貯留量の変動が一定期間にわたって累積される場合, 平均値としては一定であることが考えられる.
4.肺胞ガス交換推定法においては, 呼気終末肺容量の推定, および肺胞ガス濃度と換気・血流分布の関係が考慮すべき点として挙げられる.更にこの方法では, 呼気と吸気の組合せにずれを生じた場合, ガス交換値の誤差が増加するので, 測定システムの精度の向上, および誤差補正の演算処理が必要とされた.

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© 日本体力医学会
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