日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム8: Hematologic disorders in Down syndrome
ダウン症候群に合併した急性リンパ性白血病
~どのように治療をするべきか~
後藤 裕明
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2016 年 53 巻 3 号 p. 196-202

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抄録

ダウン症候群(Down syndrome: DS)の小児では様々な先天性・後天性疾患の罹患頻度が高く,急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia: ALL)もDSの小児に発生することが多い疾患のひとつである.DSの小児では小児全体と比較してALLの罹患率が10~30倍高い.DS-ALLの予後は他の小児ALLと比較して不良であるが,その要因にはDS-ALL細胞そのものの特徴と, DS患児の身体的特徴の両者が関係している.細胞学的な特徴として,DS-ALLには小児ALLにおけるrecurrent chromosomal translocationがみられることが少なく,ETV6-RUX1融合遺伝子など予後良好因子を持つ症例の少ないことが,DS-ALL全体の予後に関係している可能性がある.CRLF2-JAKシグナルの異常活性化はDS-ALLの半数以上において認められ,将来の治療標的となる可能性がある.DSの患児はmethotrexateをはじめとする抗白血病薬に対する忍容性が低く,特に化学療法中の皮膚・粘膜障害,重症感染症が問題となる.強力な化学療法はDS患児における治療関連死亡の原因となるが,一方で,過度な治療薬の減量はALLの再発率を増加させる可能性がある.今後はより多くの症例に対して統一された方針で治療を行い,支持療法を含め,DS-ALLに対する適切な治療法を開発する必要がある.DS-ALLの治療における問題点はDSの小児に決して特異的なものではなく,DS-ALLに対して安全かつ有効な治療法は他の小児ALL症例の多くにとっても有望な治療となりうることが期待される.

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© 2016 日本小児血液・がん学会
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