日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム2: Novel molecular targets against childhood neoplasms
神経芽腫に対する新規分子標的療法の探索
樋渡 光輝
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2017 年 54 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

進行性神経芽腫は,近年の小児悪性腫瘍における集学的治療の発達にもかかわらず,長期生存率は50%に満たない.このためより疾患特異的な新しい治療法が必要である.近年,神経芽腫においてm-TOR異常やanaplastic lymphoma kinase ALK)変異が造腫瘍性に関わっていることが報告され,m-TORおよびALK阻害剤の臨床応用が行われているが劇的な成功にまでは至っていない.これまでの検討ではALK阻害剤は染色体転座関連ALK融合遺伝子を持つ腫瘍細胞には細胞増殖抑制効果を認めるがALK自体に変異を持つ腫瘍細胞には効果がないことが知られている.本研究では神経芽腫細胞株に対して,さまざまな腫瘍発生に関わる蛋白キナーゼを標的とした低分子化合物ライブラリーを用いてスクリーニングを行った結果,Cucurbitacin I(JAK2-STAT3阻害剤)が,神経芽腫治療効果が期待される低分子化合物の一つであることを同定した.まず,Cucurbitacin Iが,神経芽腫細胞株(SJNB-4, TGW, GOTO, UTP-NB18)において,細胞増殖性や細胞生存性に与える影響をin vitroにて検証した結果,Cucurbitacin Iは,濃度依存性に神経芽腫細胞株の増殖を抑制した.次にALK変異を持つTGWを用いたシグナル系の解析により,Cucurbitacin Iは,JAK2のリン酸化を阻害する事を介してその下流シグナルであるSTAT3のリン酸化を阻害することにより作用することが示唆された.ALKの下流シグナルにはJAK-STATが存在することから,これらの結果よりALK変異を持つ神経芽腫発生に対するJAK2-STAT3経路が治療標的となり,その阻害剤であるCucurbitacin Iによる治療効果の期待が示唆された.

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© 2017 日本小児血液・がん学会
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