2023 年 14 巻 9 号 p. 1260-1265
はじめに:進行した強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis,以下AS)患者に破壊性病変が生じることはあまり知られていない.破壊性病変はinflammatory lesionsとtraumatic lesionsに分類される.今回われわれはAS患者の頚胸椎移行部に生じた破壊性病変(traumatic lesions)が原因で下肢不全麻痺を生じた1例を経験したので報告する.
症例:68歳,女性.ASとそれに伴う骨粗鬆症のため通院中であったが,3ヶ月前から徐々に下肢脱力の進行を認めるようになった.CTおよびMRI検査ではT2/3高位に椎体から椎弓,椎間関節に及ぶ骨破壊を伴った偽関節様の所見を認めた.破壊性病変部での不安定性が脊髄障害の原因と考え手術の方針とした.手術はASにおける優れた骨癒合能を考慮して偽関節様部に対する掻爬や骨移植はせずに後側方固定術をおこなった.術後下肢の麻痺は改善し,偽関節様部の骨癒合を認めた.
結語:traumatic lesionsに対しては手術が必要とされるが,ASの骨形成能を考慮すると前方固定なしの後方固定術は有効な手術法の1つと考えられた.