Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
緩和ケア病棟実習で医学生は何を学んだのか?
田所 学高橋 美穂子松下 久美子
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2017 年 12 巻 2 号 p. 229-238

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟実習における医学生の学びの内容と同病棟に対するイメージの変化を明らかにする.【方法】医学生20名を対象に質問紙調査を行い,Berelsonの手法により分析した.【結果】学びの内容として「患者・家族のQOLの向上を目的とした具体的なケア」「緩和ケアの概念・提供体制・効果に関する新たな気づき」「がん終末期における緩和治療の実際」「緩和ケア病棟の医療における位置づけ」「適切なコミュニケーションによる患者・家族とスタッフとの信頼関係の構築」「各職種の特徴とチームケア」「患者・家族に向き合うスタッフの姿勢」「看取りに立ち会えた学生の経験」「患者・家族の抱える思い」「がんの疾患特性とその脅威」「スタッフの悲嘆とメンタルケアの必要性」が抽出された.イメージは,否定的・静的から肯定的・動的へと変化した.【結論】医学生は患者・家族やスタッフとの直接的な関わりから基本的緩和ケアを学んだ.

緒言

医学教育の国際認証1)やがん対策推進基本計画2)に基づき,卒前医学教育における緩和ケア臨床実習の拡充が進められている.全国80大学の調査では,2009年度に同実習を実施した大学は7.6%3)であったが,2015年度では62%4)と増加した.東京医科歯科大学でも2016年度,必修の学外緩和ケア病棟実習を導入し,友愛記念病院(以下,当院)も同実習に協力した.

緩和ケア病棟への入院は主治医からの提案によることが多いが5),患者とその家族は同病棟についての十分な説明を受けられず6),理解しないまま入院している現状がある5).また,患者・家族の同病棟に対する否定的なイメージや一般病棟スタッフの知識不足も報告されている7).医学生の多くは近い将来,がん医療に携わり担当患者を緩和ケア病棟へ送り出す立場となる.今回,学生が緩和ケア病棟を正しく理解したうえで患者・家族の心情に配慮した説明を行えるようになること,それにより患者・家族の不安感や見捨てられ感が軽減することを期待して本実習を実施し,本研究に先立ちその活動8)を報告した.しかし,同報告では学生の主観的評価と知識習得効果の検証にとどまり,学生の学びの具体的な内容の分析は行っていない.また,緩和ケア病棟実習における医学生の学びに関する報告は少ない.そこで本研究では,実習終了後の学生の記述から,緩和ケア病棟実習における学生の学びの内容と,学生の緩和ケア病棟に対するイメージの変化を明らかにする.

方法

1 用語の操作的定義

本研究において,「学び」とは「五感を通して得た気づきや獲得した情報を言語化し記述した事柄」,「がん難民」とは「積極的抗癌治療の手段が尽きた段階において,主治医より『これ以上この病院では治療できない』と宣告されたことで見放された感覚を覚え,行き場をなくしている患者」と定義した.

2 緩和ケア病棟実習の概要

1)実習の目的および到達目標(図1

動機づけのため,実習前に実習目的を記した手引きを学生に配布した.大学から提示された実習到達目標①〜⑤に加え,より具体性をもたせるため当院独自で目標⑥〜⑨を追加設定した.

図1 緩和ケア病棟実習の手引き

2)実習カリキュラム(図2

実習は1回4日間で,学生を1名ずつ受け入れた.実習内容は各施設に委ねられ,当院では多職種による実習委員会を組織しカリキュラムを編成した8).実習では回診や面談への同席,看護師のケアやリハビリテーションの見学,ケアプラン作成など,患者との直接的な関わりを重視した.また,医師・認定看護師・認定薬剤師による対話型個別レクチャーや,多職種での事例検討会・デスカンファレンスへの参加も取り入れた.

図2 緩和ケア病棟実習スケジュール

3 研究対象

研究対象は,2016年4月から9月に当院緩和ケア病棟で実習を行った医学科6年生20名とした.

4 データ収集方法

実習の成績評価を最終日に行い評価票を学生に返却したうえで,無記名式質問紙と切手つき返信用封筒を学生に配布し,回答する場合は翌日以降の返送を依頼した.質問項目は,①緩和ケアとは何か,本実習で学んだこと,得たものを自分の言葉で説明する,②実習を終えて,緩和ケア病棟に対して抱いていたイメージはどのように変化したか,③主治医として患者を緩和ケア病棟に紹介する際どのように説明するか,の3項目とした.回答にはA4版2枚の用紙を使用し,各々の質問項目に対する自由記述形式とした.

5 分析方法

1)学生の学びの内容分析

Berelson, B.の内容分析9)を参考に行い,質的研究の評価として,Consolidated criteria for reporting qualitative research(COREQ)10)を用いた.記述された学生の回答から,意味内容を損ねずに1文を抽出し記録単位とした.1文に複数の内容が記述されている場合は分割し,複数の記録単位とした.文脈単位は学生1名分の記述全体とした.個々の記録単位を意味内容の類似性に基づき分類し,意味内容が同じ記録単位を集約し同一記録単位群(コード)とした.さらにコードの類似性に基づきカテゴリを形成した.最後に各カテゴリに包含された記録単位の出現頻度を集計した.分析は実習指導者である博士を有する1名の緩和ケア科医師と,実習指導には直接関わらず,学士を有し質的研究の経験のある1名の看護師とで独立して行い,合意が得られるまで繰り返し検討した.カテゴリの信頼性を確保するために,質的研究あるいは看護教員の経験を有する看護師2名とのカテゴリ分類の一致率を,Scottの式11)に基づき算出した.一致率が70%以上の場合には,カテゴリ分類の信頼性が確保されていると判断される9)

2)学生の緩和ケア病棟に対するイメージの変化の分析

学生の記述から,実習前・後の同病棟に対するイメージが同一パラグラフ内に記述されている記録単位を抽出し比較した.

3)実習目標の達成度の検証

9つの実習目標と,1),2)で得られた学びのカテゴリおよびイメージの変化とを研究者2名で照合し,それぞれがどの目標に該当するのかを検証した.また,20名の学生一人ひとりについても,記載したコードから同様の検証を行い,9実習目標のうちの学生ごとの達成された目標数を分析した.

6 倫理的配慮

実習に際して,患者に対して実習目的を説明のうえ,学生の同席・見学への同意を得た.研究に際しては,学生に対して,質問紙に「緩和ケア教育カリキュラム作成のための研究であること,研究協力は任意であり,回答は無記名で行い,個人を同定しうる情報は除去して行うこと,成績評価には用いられないこと」を記載し,質問紙の返送をもって調査協力への同意とした.本研究は当院倫理審査委員会の承認を受けた.

結果

質問紙の回収率は100%であった.

1 学生の学びの内容(表1

学生の記述から学びに関する20文脈単位と250記録単位を得た.表現が抽象的あるいは意味が不明瞭な38記録単位は除外し,212記録単位を分析対象とした.分析の結果,59コード,11カテゴリが形成された.学生ごとのコード数,カテゴリ数〔中央値(四分位範囲)〕は,それぞれ11(6-15),5(3-6)であった.カテゴリ分類の一致率はそれぞれ100%,77.6%であり,信頼性は確保された.以下,コードを用いて各カテゴリを説明する.カテゴリは[ ](212記録単位中の割合),コードは〈 〉,学生の記述は斜体で示した.また,①〜⑳は,本研究において研究対象学生に無作為に付した番号である.

表1 医学生の学び

1)[患者・家族のQOLの向上を目的とした具体的なケア](39.2%)

このカテゴリには,学生が見学したケアの内容やその意味への理解が分類された.〈様々な苦痛に対する全人的アプローチ〉 〈患者・家族のQOLの維持・向上〉 〈その人らしい生活を送るためのケア〉 〈患者・家族の意思の尊重と希望の実現〉 〈規則が少なく自由に過ごせる場〉 〈自然な死を穏やかに迎えるためのケア〉 〈不要なものは取り除く引き算としてのケア〉 〈リハビリテーションによるQOLの向上〉 〈療養の場の選択の支援〉 〈患者との対話による希望の把握〉 〈快適な生活環境の整備〉 〈季節の行事を大切にするケア〉 の12コードから構成された.

2)[緩和ケアの概念・提供体制・効果に関する新たな気づき](9.9%)

このカテゴリには,緩和ケアの導入時期や対象などの定義に基づく理解,緩和ケアの現状に関する学生の気づきが分類された.〈早期からの緩和ケア〉 〈家族も緩和ケアの対象であること〉 〈患者・家族,医療者による緩和ケアへの誤解〉 〈緩和ケアとは全ての医療の基本となるケア〉 〈緩和ケアの対象疾患〉 〈緩和ケアにより生命予後が延長する可能性〉 の6コードから構成された.

3)[がん終末期における緩和治療の実際](9.0%)

このカテゴリには,がん終末期における医師の具体的な治療行為とその方針への理解が分類された.〈身体症状に対する緩和治療〉 〈原疾患の積極的な精査・治療の差し控え〉 〈急な容態の変化に対する延命治療の差し控え〉 〈看取りの際の医師の具体的な動き〉 〈エビデンスに基づいた緩和ケアの実践〉 〈麻薬管理の複雑さ〉 の6コードから構成された.

4)[緩和ケア病棟の医療における位置づけ](8.0%)

このカテゴリには,緩和ケア病棟の,がん治療における位置づけと一般病棟との対比が分類された.〈一般病棟への復帰や在宅療養への移行の可能性〉では,「緩和ケア病棟には必ずしもずっと居る必要はなく,ある程度苦しさが緩和されたら,根治を目指した治療に戻っても構わないし,退院して家などで過ごしてもいい⑭」などの記述が含まれた.その他, 〈社会における緩和ケア病棟の役割〉 〈一般病棟との視点,手法の相違〉 〈緩和ケアと緩和ケア病棟の概念の相違〉 〈緩和ケア病棟への入院により生きる目的を失う可能性〉 〈主科と独立した患者との関わり〉 の計6コードから構成された.

5)[適切なコミュニケーションによる患者・家族とスタッフとの信頼関係の構築](8.0%)

このカテゴリには,患者・家族とのコミュニケーションの大切さと難しさへの気づき,信頼関係の構築の重要性が分類された.〈患者・家族とのコミュニケーション技術・接し方〉 〈患者・家族との信頼関係の構築〉 〈患者・家族に悪い知らせも伝える大切さと難しさ〉 〈患者・家族への緩和ケアについての適切な説明〉 〈患者・家族に絶望を感じさせない説明〉 〈スタッフと患者・家族との距離の近さ〉 〈患者・家族のスタッフに対する感謝〉 の7コードから構成された.患者・家族への説明に関する記述として,「緩和ケアは絶望,緩和ケア医=死神とならないように説明をする②」「『もう何もすることがない』ということは,実際にはないし,言ってはいけない⑧」などが含まれた.

6)[各職種の特徴とチームケア](8.0%)

このカテゴリには,多職種が個々の専門性を発揮し連携していることへの気づきと他職種への関心が分類された.〈多職種の連携〉 〈各職種の専門性〉 〈個々のスタッフの価値観がケアに反映されること〉 〈スタッフ同士の尊重と助け合い〉 〈他職種の役割と視点〉 〈他職種を萎縮させる医師の特性〉 〈看護師が中心となるチームケア〉 の7コードから構成された.

7)[患者・家族に向き合うスタッフの姿勢](7.1%)

このカテゴリには,患者・家族に対するスタッフの姿勢と医師としての心構えが分類された.〈患者の尊厳を守ること〉 〈患者・家族に寄り添う姿勢〉 〈病気ではなくまず患者をみるという医師としての心構え〉 〈患者を見捨てない姿勢〉 〈患者の苦しみから逃げずに向き合い受け止める姿勢〉 の5コードから構成された.

8)[看取りに立ち会えた学生の経験](3.3%)

このカテゴリは,〈看取りに立ち会えた経験〉 〈亡くなった患者へのケア〉 の2コードから構成された.

9)[患者・家族の抱える思い](2.8%)

このカテゴリには,面談や回診,ケアの見学を通して学生が知った患者・家族の思いが分類された.〈患者・家族の納得〉 〈患者・家族の苦しみ・悲しみ〉 〈患者の死に対する家族の覚悟〉 の3コードから構成された.

10)[がんの疾患特性とその脅威](2.8%)

このカテゴリは,〈がん終末期の経過,予後予測〉 〈がんの脅威,患者へ与える影響の大きさ〉 〈癌種に依らない苦痛の同一性〉 の3コードから構成された.

11)[スタッフの悲嘆とメンタルケアの必要性](1.9%)

このカテゴリは,〈患者の死に対するスタッフの悲嘆〉 〈スタッフに対するメンタルケアの必要性〉 の2コードから構成された.

2 緩和ケア病棟に対するイメージの変化(表2

15名(75%)が同病棟に対するイメージの変化について記述し,うち2名は抱いていたイメージに変化はなかったと記述した.残りの13名から得られた14記録単位を,実習前・後のイメージに分離し,[患者][環境][目的]の3カテゴリに分け,学生一人の記録単位を同一行で対比させて表に示した.実習前は,「暗い」「死ぬ」「諦めた」という否定的,「静かに」「寝ている」という静的な語が見られたが,実習後,「明るい」「生きる」「笑顔」という肯定的,「活力」「コミュニケーションを取る」「リハビリ,治療を受ける」など,動的な語への変化が見られた.

表2 緩和ケア病棟に対するイメージの変化

3 実習目標の達成度の検証(図3

9つの実習目標と内容分析で得られた学びの11カテゴリとを照合した結果,全体として,全ての目標が網羅されていた.また,学生1人当たりの9実習目標中の達成数の中央値は7(四分位範囲は7-7)であり,学生各々も目標の約8割を網羅する学びを得ていた.実際の記述内容として,「自分の中で緩和ケアの視点を入れて診療に当たりたい⑯」など,目指すべき医師像の形成につながる記述もみられた.また,「この実習以前は,緩和ケアの目的は,専ら苦痛を取り除くことだと考えていましたが,実際にはその先にある,患者・家族が何を叶えたいか,それを実現させるというところまで及ぶということを学びました⑥」という気づきを得た学生もいた.

図3 学びのカテゴリおよびイメージの変化と,実習目標との対照

考察

1 実習の効果と今後の課題

得られた11カテゴリの視点は多岐に及んでおり,緩和ケアに関する知識・技術の習得のみにとどまらず,多角的な学びを得られたことを示している.学びの多彩さや肯定的なイメージへの変化が何に起因するのか,実習が学生にどのような影響を与えたのかを考察し,実習の効果および今後の課題を検討する.

2 学生の学び

1)医療の基本としての緩和ケア

今回,学びの多くが緩和ケアに特異的ではなく,医療に対する考え方,医療者としての態度に関するものであった.これらは「基本的緩和ケア(患者の声を聴き共感する姿勢,信頼関係の構築のためのコミュニケーション技術,多職種間の連携の認識と実践のもと,がん性疼痛をはじめとする諸症状の基本的な対処によって患者の苦痛の緩和をはかること)」12)に相当する学びである.

2)患者の主治医に対する思い

学生は緩和ケア病棟への紹介面談に同席する中で,紹介元の医師への不信感や,見捨てられ感など,患者・家族の本音に触れた.医療現場で直接触れることの殆どない医師への不信感の存在とその背景を知ることは,これから医師になる学生にとっては極めて重要な学びであり,自分が今後どのように成長していかねばならないかの洞察につながる.

3)治療の選択肢としての緩和ケア病棟

〈一般病棟への復帰や在宅療養への移行の可能性〉について,8名が記述した.緩和ケア病棟が最終地点ではなく治療の流れの中の選択肢の一つであるという気づきは,後述する「緩和ケア病棟に対するイメージの変化」にも影響していると推察される.

4)チームケア

学生は,多職種が一同に会し1人の患者について討議する場に臨み,他職種の役割に関心を持ち,スタッフ同士の尊重と助け合いの重要性に気づいたと考える.これはチーム医療を築くために不可欠である.

3 緩和ケア病棟に対するイメージの変化

緩和ケア病棟に対するイメージは,「否定的,静的」から,「肯定的,動的」への変化を認めており,これは同病棟で4日間を過ごし,患者・家族と触れ合ったことにより生まれたと考える.緩和ケア病棟へ送り出す立場の医師が,同病棟に対して肯定的なイメージを持つことは,患者の安心と見捨てられ感の軽減につながる.

4 緩和ケア病棟実習の効果

大学と当院が設定した実習到達目標はほぼ達成されたと考える.さらに,目指すべき医師像の形成や,「症状の最小化よりも,QOLの最大化を」13)という緩和ケアの本質に迫る学びなど,目標を超えた効果も認めた.

なぜ学生は上記の学びとイメージの変化を得られたのか.同実習の特徴として,以下の4点が考えられる.①患者・家族に直接関わる時間が長いことが対象の理解,関心の向上につながり,その結果,対象を尊重する姿勢が身につく.②他職種との関わりが多いことから彼らに興味・関心を抱きやすく,医療に対する多角的視点が得られる.③患者と接する際,これが最期の関わりとなるかもしれないという緊張感が生まれる.④看取りに触れる経験から,人の生死について考える機会が得られる.以上の特徴は,柏木がホスピスケアを通して洞察した死の臨床の魅力14),「ドラマ性」「凝縮性」「完結性」「濃密性」「平等性」「双方向性」「全人性」「創造性」「チーム性」「開放性」「統合性」「回帰性」に集約され,学生は本実習から「死の臨床の魅力」を感じ取っていたと考える.ゆっくりと流れる時間は人の認識に深く作用する15)とされ,緩和ケア病棟での緩やかな時間は,学生に医療の目的や医師としてのあり方を考えさせたとも言える.このような機会を医療の現場に出る直前に得られたことは学生にとって貴重であると考える.

5 緩和ケアの卒前教育の現状

緩和ケアの教育手法として,患者・家族との直接的な接触およびそのフィードバック,リフレクションが含まれるべきとされているが16),世界的には講義,事例検討が主体である17).患者・家族との直接的な接触を含む実習は,選択科目としての実施報告が散見されるが1820),今回の実習と同様の必修科目としての実施報告は,研究者らが調べたかぎり,ドイツ21)とタイ22)の2大学からのみであった.また,わが国においては,1人の在宅終末期がん患者を2人の医学生が半年間担当した実習報告23)があり,医学生は人の生と死を考察し,チーム医療の重要性など医の原点を学んだとされている.これは本研究で得られた知見と共通のものである.

6 本研究の限界

第1に,本研究は単一のプログラムにより実習した医学生の記述に基づく研究であり,緩和ケア病棟実習全体の学びを反映しているとは言い難い.また,学生は前年度に緩和ケアの講義を受けており24),今回記述された学びの中には,過去に学んだ概念や知識が含まれている可能性がある.第2に,本研究は質問紙への記述のみを分析対象としているため,強く印象に残ったことが優先的に記述され,形成されたカテゴリを学び全体として捉えるには限界がある.また,回答の本意についての理解や,「QOL」「スピリチュアルケア」など学生が頻繁に用いた用語の意図の把握が不十分である.第3に,本研究は実習直後の評価であり,今後,長期的な効果の検証も必要である.第4に,実習指導者と研究者が同一であること,また公表されることを前提に回答されたものであることから,匿名化されてはいるもののネガティブな回答は得られにくかった可能性がある.

7 今後の課題

「緩和ケアの必要性が高まる現状に対し,敢えて緩和ケア医が必要となることに疑問を持った①」などの記述から,本実習では「専門的緩和ケア」については教育できなかった可能性が示唆される.とくに,WHOの緩和ケアの定義25)にも含まれる,「死を正常なプロセスとして捉えること」に関しては,今回の学生の学びには認めず,指導教官も意識していなかった.今後,「Quality of Deathを追求する」という緩和ケアの専門性の教育も検討すべき課題である.

結語

緩和ケア病棟実習において,学生は緩和ケアに関する知識・技術の習得のみならず,患者・家族やスタッフとの直接的な関わりを通して,医療者としてのあり方を学ぶ機会を得た.緩和ケア病棟に対するイメージは肯定的なものに変化した.本実習は,基本的緩和ケアの習得において有効であった.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
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