Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
The Predictive Risk Factors for Bedsores of Terminal Cancer Patients Receiving Home-based Care
Hisayoshi NishizakiNatsue IshikawaHideyuki HirayamaMitsunori MiyashitaNobuhisa Nakajima
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 12 Issue 3 Pages 271-276

Details
Abstract

【目的】在宅診療を受けているがん末期患者における褥瘡の予測危険因子を明らかにすることを目的とした.【方法】在宅診療を専門としている施設において,在宅のまま死亡にて診療終了となるまで施設入居者を含む在宅診療を受けていたがん末期患者95例について,後ろ向き研究を行った.【結果】褥瘡ができた患者は31名で,できなかった患者は64名であった.二変量解析の結果,統計学的に有意であった変数は,大浦・堀田スケール(以下,OHスケール)(P=0.02),過活動型せん妄(P=0.005),拘縮(P=0.008),ヘモグロビン値(P=0.02)で,多変量ロジスティック解析で有意であった変数は,拘縮(OR=16.55 P=0.0002) と,過活動型せん妄(OR=4.22 P=0.008)が独立した褥瘡のリスク因子として同定された.【考察】在宅診療を受けているがん末期患者においては,褥瘡の予測危険因子として過活動型せん妄についても考慮すべきである.

緒言

2014年に65歳以上の人口が24.0%となり,2060年頃には65歳以上の高齢者が人口の約40%を占めることになる我が国ではすでに超高齢社会を迎えており1),近年がん末期患者も最期まで在宅療養し,看取る症例が多くなってきた2).最期を迎える場が病院から在宅へとシフトしていくことは国の政策でもあり,今後在宅診療を受ける患者割合が急激に増加していくことが予想される.さらに現在我が国では,すでに約2人に1人が生涯のうちにがんに罹患し,死因の約3分の1ががんとなっている2).たとえがんの末期であっても,病院ではなく在宅療養をしている患者が急増してきている3)が,在宅療養中のがん末期患者に発症する褥瘡についての,詳細な調査,予防介入についての研究は少ない.

一般的に褥瘡の予測危険因子としては,大浦・堀田スケール(以下,OHスケール)などを使って判定されることが多く,その点数が高いほど,褥瘡になりやすいといわれている4).在宅患者についても在宅版Kスケールでの報告が多くされており,その有効性は認められている5).褥瘡になりやすい状態であるかどうかがわかれば,早めにエアマットを導入するなど,対処すべき時期の判断に役立つ.上記の先行研究では自力体位変換,病的骨突出(仙骨部),浮腫,関節拘縮のほか,介護力,るい痩が危険因子として示されている.しかし,栄養状態が不良のがん末期患者において,しかも医療者ではない家族が主介護者である在宅療養中のがん末期患者の褥瘡発症の危険因子は一般患者同様,OHスケールやその他の褥瘡予測スケールで評価できるかどうかについての報告例はない.

本研究の目的は,在宅療養中のがん末期患者の褥瘡発症の予測危険因子を探索することである.

方法

調査期間および対象患者

2013年4月より2016年8月までの間に外来診療は行っていない在宅診療を専門としている仙台往診クリニック1カ所(以下,対象クリニック)において,施設入所を含む在宅診療を行い,がんの治療が終了したがん末期患者について後ろ向き研究を行った.施設を含む在宅での療養中に褥瘡ができた症例のみを評価するために,2013年4月以降に初診となった患者のうち,当院初診の時点で,褥瘡を発症していた患者は,自宅療養中に褥瘡を発症した患者ではないため除外した.期間中に他院に入院,または転院した患者や,観察期間終了時にも在宅療養を継続している患者は褥瘡の発症と経過を追跡できないため除外した.

調査方法

上記の期間において当てはまる患者について診療記録を確認し,実際にケアに当たった看護師や医師からOHスケールと在宅Kスケールにおける褥瘡発生予測危険因子のほか,呼吸苦,せん妄のありなしについて聞き取りを行い,また,診療所初診時の血液検査データについても調査した.

褥瘡の発症リスクを評価する尺度として,OHスケールのほかに厚生労働省危険因子評価6)やK式スケール7),在宅版K式スケール5)がある.OHスケールに含まれる褥瘡予測危険因子は,自力体位変換(できる:0点,どちらでもない:1.5点,できない:3点),浮腫(なし:0点,あり:3点),病的骨突出(なし:0点,中等度:1.5点,高度:3点),関節拘縮(なし:0点,あり1点)の4つについて,点数化し,その合計点で危険因子なし(0点),起因性褥瘡が軽度レベル(1~3点:褥瘡発生率は約25%以下),中等度レベル(4~6点:同約26~65%),高度レベル(7~10点:同約66%以上)の4つに分類する.

今回は対象施設で初回診察時にルーチンに行われているOHスケールと在宅Kスケールを用いて判断した.在宅での褥瘡リスク評価を行う方法として,在宅版KスケールではOHスケールと同様の判定基準のほかに,るい痩(栄養補給),介護力のありなし(介護知識)が含まれている.るい痩については,BMI(Body Mass Index)が20%未満であることを念頭に置いた主観的な判断と,栄養補給については今回用いた在宅K式スケールで「介護者が1日3食を提供できない,または,食事のバランスに偏りがあるが補食などの提供ができない状況になったときにYesにする」となっている8)ため,これに準じた.「介護力,介護知識がない」の判断は,同様に,①除圧・減圧(圧力を取り除くこと),②栄養改善,③皮膚の清潔保持の3つの項目のうち,一つでも欠く場合は「なし」となっている8)ため,これに準じた.

今回調査の独自の因子として,褥瘡発生前にせん妄症状と,呼吸苦症状のありなしについても調査した.今回の研究では,せん妄症状についてはカルテ記載から具体的に判断できる過活動型せん妄に限定した.

そのほかに,がん患者の多くが持つと考えられる症状には疼痛があるが,これは対象施設で,この研究の調査期間において緩和ケア担当医師がおり,全症例でおおむね症状コントロールができていたことより除外した.呼吸苦も体力を消耗するつらい症状で,がん末期患者において見られることも多いため今回採用したが,呼吸苦症状についてはカルテ記載から判断できる,本人からの呼吸苦の訴えのみを判断材料とし,在宅酸素療法を利用していただけの症例は除外した.さらに前述のようにOHスケールは自立体位変換,浮腫,病的骨突出,関節拘縮の4つについて有意差が出やすいように点数化されているが,そのままOHスケールを用いて点数化したものと,この4つの因子のほかにも,るい痩,介護力のありなしについて,それぞれを1項目として項目の合計数についても解析した.

さらに在宅診療開始時点の初回採血の検査値についても,褥瘡発生予測危険因子となる可能性について調査した.今回採用した血液検査データとしては,アルブミン,ヘモグロビン,白血球数,好中球率,リンパ球率,総リンパ球数,好中球/リンパ球比,CRPの8種類の採血検査値について解析した.在宅がん末期患者の場合,採血回数が極端に少ない患者も多くみられるため,採血時点は対象診療所での初回採血時の値を採用した.採血値の正常,異常の判断については,対象診療所で常時利用されている検査会社による,男女別のそれぞれの採血検査基準値を採用し,基準値内,基準値未満,基準値を超えた患者の3つに分類して解析した.

解析方法は褥瘡の有無を目的変数,各要因を説明変数とした二変量解析を行った.また二変量解析でP値が0.2以下であった変数を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析を用いた.OHスケールの因子の合計数と点数化したものについては,拘縮がOHスケールの1項目であり,両方入れると重複することになるため,2変量解析でOHスケール全体より拘縮単独の方が有意だったことより拘縮のみの方を用いた.統計解析はJMP pro ver.11.0 (SAS Institute, Cary, NC, U.S.A.)を用い,統計学的検定は全て両側検定で行い,有意水準は0.05とした.

なお,本調査は人を対象とする医学研究であり,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」および「医療・介護関係所業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」を遵守して行った.

結果

2013年4月より2016年8月末日までに対象クリニックで死亡にて診療終了となった患者95例を対象とした.分析対象95例のうち,死亡までに褥瘡ができた患者は31例で,褥瘡ができないまま死亡し,対象診療所を診療終了となった患者は64例であった.二変量解析の結果を表1に示す.

表1 褥瘡の有無に関する二変量解析

年齢,性別,がんの種類において有意差は認めなかった.診療開始時において診療録や本人,家族の話から全例にがんの転移を伴っていた.

OHスケールの単項目だけで,点数化しなかったものについては関節拘縮以外の項目では有意差は認めなかった(自立体位変換:P=0.19,浮腫:P=1.00,病的骨突出:P=0.06).今回調査した,るい痩,介護力,自立体位変換,浮腫,病的骨突出,関節拘縮なしの6種類の危険と考えられる因子のなかで,単独では関節拘縮のみが有意差を認めた(P=0.008).また,6つのうち認められた因子の合計数では有意差を認めた(P=0.005).今回新たに採用した,過活動型せん妄と呼吸苦の症状因子での解析では過活動性せん妄があった患者に有意差を認めた(P=0.005).呼吸苦症状があった患者には有意差は認めなかった(P=0.32).8種類の採血検査値ではヘモグロビン値が基準値未満であったもののみに有意差を認めた(P=0.02).そのほかのCRPやアルブミン,リンパ球数などの採血検査値には有意差は認めなかった(Alb:P=0.49,WBC:P=0.11,Neu:P=0.83,Lym:P=0.66,TLC:P=0.33,Neu/Lym:P=1.00,CRP:P=0.61).

多変量ロジスティック回帰分析の結果を表2に示す.二変量解析でp<0.20であった変数について多変量ロジスティック解析を行い,Backward法で閾値をP値0.05として変数選択をしたところ,有意であった変数は,関節拘縮(OR=15.58 P=0.0004),過活動性せん妄(OR=3.89 P=0.02),初診時ヘモグロビン値基準値未満(OR=13.17 P=0.001)だった.

表2 ロジスティック回帰分析(変数選択:二変量解析P=0.20以下で閾値P値0.05)

考察

今回の調査では以前より有効性を認められているOHスケールによる点数化がやはり有意であった.しかし個々の因子ごとの解析結果を見ていくと,関節拘縮以外には有意差はなかった.骨突出で有意差がなかったのは,がん末期患者のため,がんの進展により病状の進行が早く,寝たきりとなった時間が短かったことも考えられる.しかし,関節拘縮については,がんの末期かどうかに関わらず,元々かなりの時間,自立的に動けない状態にあったことを意味しており,これは一般的にいわれる危険因子と同様に,今回も因子として成立したものと考えられる.

本研究における新たな知見として,褥瘡発生前における過活動型せん妄が,在宅でのがん末期患者における褥瘡の危険因子の一つである可能性が示唆された.せん妄症状については,近年がんの末期の予後スケールとして使われることが多くなったPalliative Prognostic Index(PPI)でも項目に入っており9)これは,がん終末期患者がせん妄を発症したときには,がんの進行により,各臓器不全や血流障害,貧血や発熱によるエネルギー消耗,さらには栄養摂取不良,睡眠不足,疼痛緩和のための麻薬量の増大など,様々な因子が考えられるなど,すなわち全身状態が悪化していることを意味しているためと思われる.先行研究でも進行褥瘡患者の予後は悪いとされており10),せん妄を褥瘡発症のリスクの一つとして考えられる可能性があった.

一方,今回調査した呼吸苦症状については有意ではなかったのは,呼吸苦症状が出現するときは,肺の病態進行のほか,場合によっては不安などの精神状態の不安定なども呼吸苦を訴える理由として挙げられ,呼吸苦イコール呼吸不全ではないことから,肺疾患が進行していても,呼吸苦を訴えない患者もあれば,逆に呼吸苦があっても病状が悪いわけではない症例もあったであろうことが考えられる.

血液検査データにおいて,栄養状態の指標であるアルブミンやヘモグロビン,感染やがんの進行に関わると考えられるリンパ球,好中球,CRPについて調査したが,今回の調査で解析した血液検査データでは,ヘモグロビン値以外には統計学的に有意差は認められなかった.本研究では,貧血が褥瘡の危険因子である可能性が示唆されたが,先行研究ではヘモグロビン低値と褥瘡の関係について述べたものはなく,今回末期がん患者のみを対象としたために,このような結果となった可能性があるが,今後さらに検討する必要がある.今回の調査では,後ろ向きカルテ調査であったため,十分に危険因子を探索できなかった可能性があり,今後血液検査項目については,検査する時期,検査する項目を予め設定し,褥瘡との関連を調査する必要がある.

本研究は,在宅療養中のがんの治療をすでに終了したがん末期患者が在宅のまま亡くなるまでの間に褥瘡ができやすいと考えられる予測危険因子について同定した,初めての研究である.今後はさらなる症例の積み重ねによりOHスケール+せん妄症状など,新たなスケールが確立される可能性もある.それと同時に,在宅療養中のがん末期患者に過活動型せん妄が見られた場合は,せん妄に対する対処を行うのみではなく,これを全身状態の悪化ととらえ,エアマットの導入を考慮するなど早期に対応することが大切であると考えられる.

本研究の限界として,褥瘡の発生に関与すると考えられる既往歴,併存疾患などについて,紹介状,診療記録,患者本人および家族や医療者の記憶からのみではあいまいな部分があるため,リコールバイアスがある.また,るい痩の評価が観察した医療者の主観的な判断であること,採血時期,せん妄が過活動型に限っていることなどの妥当性や,過活動型せん妄が診療録の記載に基づいて,研究者が診断しているため,誤診している可能性がある.

結論

本研究により,在宅療養中のがん末期患者においては,褥瘡の予測危険因子は通常のOHスケール,在宅K式スケール項目におけるスケールのほか,過活動型せん妄が評価の一つとして判断できる可能性が示唆された.今回の研究では症例数が少ないために,血液検査データについてはややあいまいだが,がん末期患者においてはヘモグロビン値の低下が褥瘡の予測危険因子の一つである可能性も示唆された.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top